実写映画で活躍する技術!マットペイント入門
「マットペイント」とは何か、知っていますか?実写映画を撮影するときに、背景を実際の建物や風景ではなく絵を使用する手法です。マットペイントなら、カメラが立ち入ることのできない場所や、虚構の世界の表現も可能です。その成り立ちから、現在使われているデジタルでの技術まで、マットペインターのベンジャミン・ナゾンさんが紹介します。
1. マットペイントとは何か?
「マットペイント」とは、デジタルやアナログの絵画技法を用いて、映画撮影のために想像上または現実のイメージを制作する技法です。
これにより、カメラが入ることのできない場所を表現したり、虚構の世界を作り上げたりすることができます。
実際に舞台装置を組み立てる必要がないため、膨大な制作費をかけることなく、さまざまな背景を作ることができます。
■デジタル以前の伝統的マットペイント
マットペイントの前身となる技術は1800年代頃に登場しました。黒く塗られたガラスを使い、露光部分を覆い隠すことで、撮影後のフィルムに背景を合成しました。
「正真正銘のマットペイント」としては、1930年頃に『キング・コング』や『ドラキュラ』などの映画で、兵営や城や島などの背景を演出するために作られた絵が最初期のものになります。
1960年代には『メリー・ポピンズ』や『猿の惑星』のために、もっとも感動的なマットペイントが作られます。
これらは今日でも、マットペイント界における傑作として語り継がれています。
デジタル化が始まる以前は、この技術はおもに画家のものでした。
彼らはスケッチしたものを参考資料として、パステルやアクリル画材を使って、さまざまな大きさのガラス板に映画の背景を描いていました。
この手法で、〈スター・ウォーズ〉初期三部作や〈インディ・ジョーンズ〉シリーズなど多くの映画のマットペイントが作られました。
下記の興味深い記事では、1970年代の〈スター・ウォーズ〉でクリス・エヴァンスなどの有名アーティストが手がけた初期のマットペイントが紹介されています。
マットペイントの技術は、映画の大成功に大きく貢献しました。
23 Gorgeous Matte Paintings From The Original Star Wars Trilogy
※リンク先は英語です。
1997年の『タイタニック』のマットペイントは、このような伝統的手法で描かれた最後の代表作といえるでしょう。
■現代のデジタルマットペイント
マットペイントがデジタルでも実現可能になると、これに「デジタルマットペイント」という名前が付きました。
最近では、(写真を合成したり、塗り重ねたりする)2DのマットペイントのためにPhotoshopやPainter、CLIP STUDIO PAINTなどのデジタルペイントソフトが、3DのマットペイントのためにMayaや3ds Maxが、そしてコンポジット(合成)のためにNukeなど様々なデジタルツールが使われています。
コンピュータのおかげで背景制作はより簡単になり、その雰囲気や天候そして時間帯もすぐに調整できるようになったため、驚くほどリアルなイメージを作り出すことができるようになりました。
また、デジタル技術は3D技術をとり入れることで、さらに重要な技術進展をマットペイントにもたらしました!この新しい可能性には2つの利点があります。
3Dカメラで2.5次元の平面を立体的に動かすことができること(カメラマッピング)、そして街や惑星、森全体といった細かく複雑な世界を作り出せるということです。
しかし、テクスチャリング(オブジェクトに特定の質感を与えること)やライティング、背景をフォトリアルな出力結果にするための技能など、3Dを用いた制作には高レベルな知識と技術が求められます。
2. マットペイントの様々な用途
■撮影セット
映画業界全体で共通のものとして、撮影セットがあります。あるカットやシーンに、前景となる建物や木々を加えるのにマットペイントが活用されます。
必要さえあれば、たとえば湖の水を前景に広げることさえできます。
■空の描写
デジタルマットペインター(DMPアーティスト)には、映画撮影での必要性やジャンル(SF、ファンタジーなど)に応じ、空の制作や修正の依頼が多く寄せられます。
■映画以外で用いられるマットペイント
デジタルアート、写真合成、加工、3Dエフェクトの混合であるデジタルマットペイントは、映画のためだけに使われるのではありません。
最近では、印刷用の広告や動画広告、ビデオゲームの背景や空の制作(スカイボックス)にも使われています。
たとえば、ファーストパーソン・シューティングゲームの山や建物、遠景にある要素の多くはマットペイントで作成されています。
マットペイントは、コンセプトアートやイラストレーションにも使用されます。
想像力と能力さえあれば、どんな業界でも活躍の場を見出すことができるはずです。
3. デジタルマットペイントの基本技術
迫力があるフォトリアルなデジタルイメージの制作には、次のルールを守ることが大切です。
まず、たくさんの画像を合成する際は、遠近法に従うようにしましょう。
たとえばひとつの街を創る場合、すべての窓が同じパースに従っていることを意識しなければいけません。
色調もまた、フォトリアルな作品制作のために大きな役目を果たします。
たとえば、山の写真を合成する場合は、合成する全ての素材の色を調和させることを意識しましょう。
同じ場所、同じカメラ、同じ時間に撮られた写真は存在しません。これらすべての条件に応じて、写真の色彩は変わります。
明度も重要な要素です。何らかの写真を見たときに、最も前景にある要素はより暗くなり、後景に行くほどより明るくなることに気づきます。
これは霧による視覚的現象で、空気遠近法という技法に応用されています。
遠くの要素に空の色を混ぜることで、絵に深みを与えることができます。
■写真素材
種類が豊富でハイクオリティな画像を活用できる環境も重要です。
最も簡単な方法としては、インターネットを使うという選択肢があります。
ただし、ダウンロードする画像のクオリティと著作権には注意しておきましょう。セットになった写真を探すなら、GumroadとPhotobash.orgが最適です。
自分のカメラを使い(できるだけよいレンズを選びましょう)、写真コレクションを作るのもいいでしょう。
日頃からカメラを持ち歩いたり、旅先などで写真を撮りためておくことをおすすめします。
4. 最後に
マットペイントの作品は、忍耐を通じて完成されるものです。
光や影や色、そしてこれらが表面や時間、距離に応じてどう変化していくかを理解することが重要です。
そして、想像で絵を描くのではなく写真を参考にしながら制作を行い、現実の風景を模倣しましょう。
そうすることで、作品をフォトリアルな仕上がりにすることができるはずです。
執筆者について
こんにちは! 私の名前はベンジャミン・ナゾンです。コンセプトアーティスト、マットペインターとして活動しています。
これまでMathematic-TVやEurosportやHexisなどと仕事をしてきました。
現在は新しいスキルの習得を目指し、Unreal Engine 4のリアルタイム・ライティングについて勉強しています。
制作に関してお手伝いできることがありましたら、ArtStationまたは私のホームページから、ぜひご連絡ください!