「二人三脚で作る喜び」人気マンガ制作秘話 ~ミユキ蜜蜂×担当編集~
「花とゆめ」で大人気連載中のラブコメディー『なまいきざかり。』 生意気な年下男子・成瀬との胸キュンなストーリーや登場する個性あふれる魅力的なキャラクターたちはどのように生まれ、担当編集は漫画制作にどのように関わっているのか? ミユキ蜜蜂先生と担当編集の小倉さんに、漫画の誕生秘話や漫画家と編集者の関係などについて聞きました。
〈作者紹介〉
■ミユキ蜜蜂
11月29日生まれ、千葉県出身。
「花とゆめ」で『なまいきざかり。』連載中。
過去作品に『姫君と三匹の獣』(全4巻)、『正義のミカタ!』など。
■「花とゆめ」編集・小倉
『なまいきざかり。』現担当。
■元担当編集・西田
『なまいきざかり。』初代担当。
由希のモデルは「女子高生の天海祐希」!?
――先生がデビューするまでの道のりを教えてください。
小倉:ミユキさんは「花とゆめ」の月例賞(HMC)に初投稿した作品で受賞されたんですよね。
ミユキ蜜蜂(以下、ミユキ):はい。高校1年生のときに応募した作品だったので、とても驚きました。でも、その後は当時の担当さんと一緒にデビューを目指していたのですが、なかなかうまくいきませんでした。
小倉:「花とゆめ」は、HMCの後、さらに「ビッグチャレンジ賞」という賞も受賞しなければならないんです。ミユキさんは3回目の挑戦で受賞して、連載が決まるまでは読み切りをいっぱい描いて頂いてたんですよね。
ミユキ:「ビッグチャレンジ賞」で受賞するまで2~3年かかってしまって……。デビューは19歳のときですね。それから「ザ花とゆめ」で短い連載を何作か描いて、デビューから7~8年ぐらい経って『なまいきざかり。』の連載を始めたんです。『なまいきざかり。』も最初は読み切りでした。
西田:連載スタート時は私が担当させていただいたんです。ちょうどそのころ増刊の「ザ花とゆめ」で、「年の差特集」という企画が立ち上がっていました。他の先生は年上男性との恋愛ネタが多かったので、ミユキさんには「年下男子を描いて頂けませんか」と提案してみたんです。ミユキさんはどんなお題でも100点以上を出してくれるので、無茶なお願いでもきっと応えてくれるだろうと思って安心して頼めましたね。
ミユキ:そのときの読み切りには、もう今とほぼ変わらない成瀬も由希もいました。連載の原型のような感じですね。
▲完璧なマネージャー・由希と生意気な年下・成瀬。対照的な2人。
――由希と成瀬の「バスケ部員とマネージャー」という設定は、どのように決められたのでしょうか?
ミユキ:女の子と男の子に大きな年の差はなくてもいいと言われていたので、部活モノなら学年の違う男女が接点を持てると考えたんです。で、部活なら「バスケの選手とマネージャー」かなって。もしも同学年の男女の話を描いてと言われていたら、部活モノにはならなかったと思います。
小倉:委員会モノだと接点が少なすぎますしね(笑)。
ミユキ:そうそう(笑)。あと、メインの2人には対照性があった方がいいとも話していました。それで先にキャラができあがっていた成瀬が生意気だから、由希が完璧なマネージャーになったんですよ。由希が年上のキャプテンを好きだったのは、だんだん年下の男の子を好きになる話だから、最初は「年下嫌い」の方がいいと思ったんです。
西田:成瀬のキャラはミユキさんがぜんぶ1人で作られたんです。
ミユキ:勝手にできあがったんです(笑)。由希は「天海祐希さんを女子高生にした感じはどうですか」と西田さんからアドバイスをいただいて、芯が強いしっかりした子というキャラになりました。
――その読み切りが好評で、即連載となったんですね。
西田:編集部でも「これは花とゆめ本誌の連載にしよう」と話していて、とりあえず集中連載という形で3話始めたんですが、3話めが掲載する前には、反響をみて「しっかり連載を続けていこう」と編集部で決まっていましたね。
ミユキ:でも私は、コミックスが出たとしても「せいぜい5巻ぐらいまでかな」と思っていました。ここまで続くイメージはなかったですね。
西田:私は絶対に連載が続くと思っていましたよ。
ミユキ:本当ですか(笑)!?
担当編集の“リクエスト”はウェルカム
――ストーリー展開について、担当編集と話し合いはされるんですか?
ミユキ:しょっちゅうしていますね。そこでアイデアも出し合います。たとえば由希の引退がかかった試合で成瀬がインターハイに行けずに泣くシーンは、西田さんから「成瀬が悔しさで泣いてほしい」というリクエストをいただいたから描けたんですよね。
西田:アドバイスではなく、リクエスト(笑)。
ミユキ:いつも「どうしよう、どうしよう」とアドバイスを求めているので、ありがたいです(笑)。
小倉:私も、自分が夢見ていることをぜんぶ言っています(笑)。キスシーンのポーズはこうしてほしい、とか。あと、私は10巻めのタイミングで担当を引き継いだんですが、そのころ、由希は大学生だけど成瀬は高校生だから一緒にいる時間がすごく短いんです。だから担当になってすぐ「成瀬を卒業させたい」と言ってしまいました(笑)。
ミユキ:(笑)。でも、もともとそういう方針ではありました。成瀬が高校生の期間はそんなに長くなくていいと思っていたので。
小倉:ただ、3年生になった成瀬がちゃんと「インターハイに行く」という結果を出す姿は見せたいとは話していたんですよね。だけど「インターハイではさすがに上位まではいけないよね」とも話していたので、インターハイ初戦で“ナレ死”させることになってしまいました(笑)。
▲見事インターハイに出場した隆北バスケ部だったが、初戦で“ナレ死”した (ナレ死:ナレーションで死(敗戦)を描く)
一同:(笑)。
友達同士のような会話からアイデアが生まれる!?
――打ち合わせはどんなペースでされているのでしょう。
ミユキ:原稿をお渡しして、小倉さんのお顔を見たときにするという感じですね。
小倉:「花とゆめ」のコミックスって、1巻で6話分入るんです。だから6話分ずつ、ざっくりとしたプロットを決める日を作っています。そこでいろいろ話しているので、原稿を頂くときは口頭で10分ぐらい。あとは、ネームに詰まったときに電話したり……。
ミユキ:細かい部分はだいたい電話でやり取りしていますね。
小倉:LINEで先生から「ご相談したいです」とメッセージがあった時は、すぐに折り返して電話しています。1時間以上電話するときもありますね。それとは別に、1巻分のストーリーを考えるときは、ちゃんと日時を決めてお会いして、喫茶店でケーキなぞを食べながら……。
ミユキ:そのときは1時間か2時間ぐらい打ち合わせします。漫画の話だけじゃなくて、最近の出来事を報告しあったりもしていますよね。
小倉:普通の女友達のような話をしていますね(笑)。ミユキさんが映画好きなので、私も映画で見た男の子の話をしたり、好きなテレビドラマの話をしたり。なるべく作品に役立つ話をしたいと思いつつ、そうじゃない話も多々してしまっています(笑)。
ミユキ:喫茶店にいる店員さんがイケメンだとかね(笑)。でも、「ああいう感じのモブキャラを登場させよう」とか、漫画につながることもあります。
小倉:そうですね。たとえば諏訪さんというキャラは、あんなにクズになってしまったのは私のせいかもしれない(笑)。私が可愛げのある、憎めないクズ系男子が好きなので、脇役としてならスパイスになるんじゃないかと思って、エピソードをいろいろ出したんです。あと、ミユキさんのお友達は恋愛経験が豊富な方が多いので、その友達のお話を宇佐見さんというキャラクターに生かしたこともありますよね。
ミユキ:周りの女友達を凝縮させたのが、宇佐見さん。特にモデルになった友達は、メイクばっちりの“できる女”風なのに、乾電池を踏んで駅の階段から落ちるとか、そういうところが可愛いんです(笑)。
「一線を越えるタイミング」で大盛り上がり!
――意見がぶつかりあうことはありますか?
小倉:ないですね。ミユキさんはこちらの意見をどんどん吸収してくださるんです。キャラの個性が定まっていますから、ネームも大きく直すことはほとんどありません。
ミユキ:逆に、2人で盛り上がることはありますよね。たとえば12巻の最後の方で、初めて由希と成瀬が一線を越えたところ。小倉さんが担当になったとき、「いつ越えるんですか」って聞いてきたんです(笑)。それからしょっちゅう「いつですか、いつですか」って(笑)
小倉:10巻ごろから、いつにするかタイミングを捜していましたね(笑)。
ミユキ:そのシーンを描いているときも、「ここのコマに効果音を入れたいんですけど」とLINEを送ったりとか。お互いすごい熱意でした。
小倉:(笑)。「花とゆめ」では、こういうシーンを細かく表現することは少ないんです。だからどこまでオーケーか迷う部分もあったんですが、“朝チュン”だけはやめようと2人で決めていて。で、ミユキさんも私もテンションが上がっているので、「全部やりましょう」と(笑)。ミユキさんが描いてくださるなら変に生々しいシーンにはならないと信用していましたから。
▲由希と成瀬が「一線を越えた」シーン。
――信頼関係ができあがっているからこそですね。では、制作で苦労していることは?
ミユキ:由希と成瀬が付き合った後の展開は、けんかして、仲直りして……の繰り返しになってしまうので、そこは今も悩みどころです。由希と成瀬の成長していく姿を描きたかったんですが、付き合うことでそのあと何が変わるかというと……。
小倉:難しいですよね。しかも2人が圧倒的なカップルなので、どんな男性キャラを出しても成瀬が一番なことははっきりしているから。2人の関係に他のキャラがどれぐらい食い込んできてくれるか、そこを描くのはすごく難しいんだろうなと思います。
担当編集の言葉が連載のモチベーションに
――漫画家と編集者の二人三脚で作品を作る喜びは、どんなところでしょう?
ミユキ:サイン会を開催したとき、小倉さんが私の横にいてくれて、2人で読者の方の感想を聞けたので、すごく楽しかったですね。
小倉:読者の方の反応がダイレクトに分かるのがうれしいですよね。
ミユキ:それと、小倉さんが入社前から私を知っていて、ずっと好きでしたと伝えてくださったことで、モチベーションが上がりました。担当になってからも「このコマのこの顔がよかったです」とかやる気が持続できるように前向きなことを言ってくれるので、すごく助けられています。
小倉:初めてお会いしたとき、小さくて可愛らしくて、イメージ通りの方が描いているんだなあと感激したんです。私、『なまいきざかり。』が花ゆめで一番好きな漫画だったので、周囲に「好き」ってずっと言っていたんですよ。もともとミユキさんの漫画に憧れて入社しているから、担当になって本当にうれしかったですね。
――では、そんなミユキさんの作品の魅力とは?
小倉:男の子をすごくかっこよく描いてくださるし、読者の方がどうしたら喜んでくれるかを一番に考えてくださっていて、それがすごくすてきだなと思います。あと、女の子が魅力的! 由希がバスケ部に入った動機は不純だけど「でも本来はそうだよね」と思える。良い意味で主人公らしくない姿をちょうどよく描いてくださるので、それが『なまいきざかり。』の魅力ですね。
――最後に、これから「マンガラボ!」に投稿しようと考えている読者にメッセージをお願いします。
ミユキ:今はSNSで投稿者同士がつながれるけど、よくない焦りが生まれたり、自信をなくしたりすることもあると思うんです。人と比べすぎて、描く楽しさを忘れないようしてほしい。まず自分が楽しんで描くことを第一に考えてほしいな、と思います。
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