【人気漫画家に聞く】大久保篤流キミだけの世界の描き方!!

大久保篤先生インタビュー

漫画を描く際にキャラクターと世界観を考える事は一番重要で一番大変な作業です。週刊少年マガジンで『炎炎ノ消防隊』を連載中の大久保篤先生に、”ファンタジー漫画”に関して、他の投稿者と差をつけるキャラクターや世界観の作り方を伺います。週刊少年マガジンの人気企画「漫画家の花道」からの特別掲載!

 

世界観は”連想ゲーム”で作り出せ!

 

――大久保先生は、自分の作品世界をどのようにして作っているのですか?

 

基本的には、一つ、二つのコンセプトから、連想ゲームのように要素を肉付けすることで世界観を作っています。

やっぱり漠然と何かをやろうと思っても、なかなか難しいと思うんです。

だから、自分のやりたいコンセプトから、少しずつ世界を膨らませていくのが一番の近道だと思っています。

 

 

――最初のコンセプトはどうやって決めているのですか?

 

僕は、自分の好きなもので、よく知られたものであり、そしてまだ誰も目をつけていないものを選ぶようにしています。
コンセプトを決める際に大切にしているのは、誰もやらなかったことを選ぶのではなく、誰も気付かなかったことを選ぶことです。
思いつくけどやる意味がないから、誰もやらなかったことをやったところで、面白味は生まれません。

皆が知っているのに、まだ誰もその魅力に気づかないものを探すよう、意識するといいと思います。

 

 

――単に奇抜なテーマを選ぶだけではダメなのですね。

 

奇をてらっただけのコンセプトでは、話を理解しづらくするだけですし、作品の世界に対する共感も得にくくなってしまいます。
『炎炎ノ消防隊』においても、コンセプトの一つは消防隊という、誰もが知っている身近な存在です。

消防士をモチーフにしたファンタジー漫画はまだないな、という新規性も意識しつつ、こうしたなじみ深さも大切だと思います。

 

 

 

――コンセプトが決まったら、次はどのようにして世界観を広げるのでしょうか?

 

連想ゲームのように、関連する要素をつけ足していくことで世界観を膨らませています。

 

例えば『ソウルイーター』のときには、死神たちが主人公というコンセプトをまず最初に考えました。

掲載当時、味方側が死神の漫画は見当たらなかったと思うんです。

 

そして、その舞台となる町は強い死神が管理してるからデスシティ。強そうな国といったらアメリカ

アメリカのラスベガスを想像していたから、砂漠の真ん中にある設定……といった連想で世界を作り上げていきました。

 

『炎炎ノ消防隊』のレトロな世界観も、消防隊というコンセプトから、消防隊といえば炎と煙、炎と煙の似合う世界といえばスチームパンク……という連想で生まれています。

 

 

――連想によって、無理なく設定を膨らませているのですね。それではキャラクターは、どう作っているのですか?

 

キャラクターの設定も連想ゲームから生まれることが多いですね。『炎炎ノ消防隊』主人公のシンラもそうです。

 

彼の場合、最初に恐ろしい笑みを浮かべるというクセを考え、そこから悪魔をモチーフにした主人公というコンセプトが生まれました。

とはいえ、主人公だから、やっぱりいい子いい子だからヒーローになりたい。そんな流れで生まれたキャラクターです。

 

また、キャラクターに合った世界設定を想像していく順番で、キャラクターの個性を出しながら、さらに世界観を広げていくこともあります。

 

『ソウルイーター』のキッドも、最強の死神の息子なので完璧なキャラというコンセプトから完璧主義者、だから几帳面で神経質と、設定が生まれています。

 

シンメトリーが好きというのは、神経質さをわかりやすく表現するためのアイディアです。

のちにキッドが登場する、ピラミッドが舞台のストーリーができたのも、シンメトリーは左右対称、左右対称な建築物が多いのはエジプト

それなら舞台はピラミッドにしよう、という発想でした。

 

 

二つの視点を使い分けよう!

 

――そうしたアイディアを発想するため、普段工夫されていることなどはありますか?

 

何かものを見るとき、まずはそれを好きになるよう心がけています。

 

否定的にものを見るよりも、肯定的に見た方が、学べることが多いと思うんです。

「なんでこうなってるの?」と疑問に思ったとき、否定的に見ていると「ここが嫌いだ!」で終わってしまいます。

 

ところが、肯定的に見ていると、「こういう面白さを表現したかったのかな?」という風に考えられるようになるんです。

そういった気付きは、今まで知らなかった手法を理解し、表現や発想の幅を増やすことに繫がると思います。

 

 

――そうやって、〝好き〟を蓄積していくことが大事なんですね。

 

そうですね。でも、その逆のパターンがアイディアに繫がることもあります。

 

例えば、既に世に出ている考え方があって、時には、あえてそれを否定するような視点で発想し、新しいアイディアを出す方法もあると思うんです。

既存のアイディアを理解した上で、あえてそれをズラしていく、ヒネクレた発想と言いますか。

 

 

――具体的にはどういったものですか?

 

『炎炎ノ消防隊』にもヒネクレた発想は盛り込まれています。

 

例えば、能力バトル漫画はこの世にたくさんあるけれど、一つの能力しか出てこないバトルというものはほとんど見ません。

ここでヒネクレた視点を持つことで、逆に「全員同じことしかできない能力バトルが作れたらいいな。そのなかで個性を出せたら逆に面白いものになるんじゃないかな」という発想が生まれました。

 

これが『炎炎ノ消防隊』のコンセプトの一つである炎属性だけの能力バトルをやってみたいと思った理由です。

 

ちなみに、タマキのラッキースケベられという設定も、同様の発想から生まれたものです。

当時ラッキースケベという言葉や展開をよく聞くようになったので、その逆のリアクションをやってみようと思ったんです。

 

 

――肯定的な視点と、ヒネクレた視点、両方が必要なのですね。

 

そう思います。

先程のシンラの緊張すると笑ってしまうクセは、ニヤッとした悪人顔を善人がやったら面白いな、というヒネクレでもあるのですが、彼のジト目やイーッとした歯は、僕が好きなモチーフなんです。

シンラのキャラクターは、言ってみれば、僕の好きヒネクレの詰め合わせと言えるかもしれません。

 

 

 

”絵”で世界を描くためには”シルエット”を工夫しろ!!

 

――新人時代、ファンタジーの世界を描くためにしていた練習などはありますか?

 

実は、僕はもともとデザイナー志望だったので、模写などはあまりしたことがなく、写実的な正確さよりもデザインとしてのカッコ良さを模索していた記憶があります。

 

服のシワなどに関しても、リアルな位置に描きこむよりも「せっかく漫画なんだから、カッコよく見えるところに入れればいいじゃん」という感じで。

今でも、シルエットがカッコいいポーズを描くため、人体構造のある程度の破綻はあえて無視することもしばしばあります。

 

僕がファンタジー漫画を描こうと思ったのは、こういったデザインへの寛容さ、ライブ感がある絵を描けるということも大きいです。

とはいえ、好きな絵だけを描いていても人気は取れませんから、こうした僕の好きなデザイン的な絵柄に、読者の目を意識した見やすさやキャッチーさなども研究して、絵柄を作っていく努力をしていました。

 

 

――読者にとっての「見やすさ」を作る上で大切にしていることはありますか?

 

「見やすさ」は作品世界の「わかりやすさ」と言いかえてもいいかもしれません。

 

せっかく描きたいものを見つけても、読者にわかりやすく伝わらなければもったいないです。

僕はデザインの専門家ではありませんが、そのために漫画においてのデザインで大切にしていることはシルエットと、パッと見の特徴と、構図を意識することです。

 

例えば、お話した『炎炎ノ消防隊』の世界観に盛り込んでいるスチームパンク的な構造物は、一言で言うと無駄が多いシルエットになっています。

 

スチームパンクの世界をよく観察すると、あらゆる機器に、必要のない取っ手や部品、不思議な突起物などがついていることに気付きます。

それらの構造物によって生まれる、掃除が大変そうな(笑)ごちゃごちゃしたシルエットが、スチームパンクのらしさ

こうしたシルエットの特徴を考え、自分のデザインに落とし込みます。

 

次に、パッと見でも読者にイメージが伝わる特徴を付けることを意識します。

新人大会の演習場(下図)は、シルエットを工夫したスチームパンク的な建物に、舞台が「東京である」ことを意識して、和風な漢字の看板を目立つように取りつけました。

 

このようにしてデザインができたら、一目見てその全体像や特徴がわかる、カッコよさよりも見やすさを優先した構図で、コマに描いていくことを大切にしています。

 

 

 

現実を見て、考え抜け!

 

――最後に、漫画を描くうえで最も大切なことは何でしょうか?

 

一番大切なのは、現実をよく見ることだと思います。

スポーツでも人でも、アンテナを広げて現実をしっかり観察する。

漫画やアニメは、作家が魅力的に思った現実世界の一部分を独自の発想で切り抜いて作った世界ですから、漫画だけを見ていたら自分だけの世界を作ることはできません。

 

現実から自分が好きな部分を自分で切り抜くことで、初めて創作性が生まれると思います。

出会った人の面白い性格やクセなどは、キャラクター作りに活かせることも多いです。

そうして出会った人や物事の面白さや本質について、「何でなんだろう?」と自分で考えてみてほしいと思います。

 

今はインターネットで調べれば、何でもすぐに答えがわかってしまいますが、それは思考の停止と言えるかもしれません。

漫画は自分だけの発想を読者に読んでもらうもの。

自分で考え、たとえ間違っていてもいいから答えを想像する習慣を大切にするといいと思いますし、僕もそう心がけています。

 

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<作家プロフィール>

大久保篤
2001年に第3回エニックス21世紀マンガ大賞を受賞。「月刊少年ガンガン」にて『一膳の骨』でデビュー。後に同紙にて『ソウルイーター』を連載。

現在は「週刊少年マガジン」にて『炎炎ノ消防隊』を連載中。

 

(C)大久保篤/講談社

※本記事は講談社「週刊少年マガジン」公式HP「マガメガ」内の新人賞企画「漫画家への花道」から特別掲載しています。

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