【人気漫画家に聞く】大今良時流、読者の心を掴む演出テクニック!!
読者の心を揺さぶる作品『聲の形』『不滅のあなたへ』の作者、大今良時先生に、漫画の演出の3つの柱となる「構図」「コマ割り」「小道具」についてそれぞれの(秘)テクニックを伺います。週刊少年マガジンの人気企画「漫画家への花道」からの特別掲載!
「構図」の肝は「情報量」!!
――大今先生が「絵 の構図」で気をつけていることはありますか?
基本的なことですが、読者に特に見てもらいたいカッコいいシーン・可愛いシーンは、キャラクターをカメラ目線にすることが多いです。
読者の目に留まりやすくするためです。
――第1話に登場する将也の部屋のシーンですが、ここでは足元からのあおるような構図ですが、どんな意図ですか?
ここで意識したのは、「何が画面に映るのか」という点です。
将也の部屋には、ペットボトルや漫画などの小物類、そしてベッドやテーブルなどの家具類がギュウギュウに詰め込まれています。
もしこの部屋を上から見下ろすような構図で描くと、画面に映る物が多すぎて、なんだか重たい、圧迫感のある絵になります。
そして、絵の重さは、そのままシーンの重さに繫がります。つまり、妙に意味深な絵になってしまうんです。
そうなるのを避けるために、できるだけ足元の方から見上げるように、画面に映る物が少なくなるように意識した構図です。
▲将也たちが部屋で遊んでいる様子を描いたコマ。画面に映る物の量を意図的に少なくしている。
――なるほど。構図によってコマの印象が変わるんですね。
はい。逆に、読者に目を留めてほしいシーンや、シリアスなシーンでは、画面に映る物の数を増やしたり、柱や壁の木目をたくさん描いたり、トーンをしっかり貼ったりして、画面が重くなるようにしています。
コマ割りは「緩急」を意識すべし!!
――次に「コマ割り」について、気をつけていることはありますか?
これも基本的なことですが、「めくり」を意識することは大事だと思います。
読者が左のページをめくった、次の右のページのことで、ここに重要なコマを持ってくると効果的なんです。
――将也の自宅での1日を描いているシーンでも、確かに「めくり」のコマは印象的ですね。
はい、将也の「退屈に負けてしまう」という心情を強調するために「めくり」を応用しました。
まず、「めくり」の前の1ページを、わざと単調なコマ割りにしています。
▲将也の日常を表現したコマ。「めくり」の大ゴマで将也の「退屈」を強調している。
――確かに、同じようなサイズのコマが並んでいますね。どういう効果があるんでしょうか。
こういう単調なコマ割りって、読みやすい反面、続くと飽きてしまうんです。
でも、それを逆手にとって、わざと読者の気を一瞬緩め、その後の「めくり」の効果を大きくしているんです。
こうやって緩急をつける演出は個人的に好きで、前作『マルドゥック・スクランブル』でも使っています。
――そうなんですね。どのシーンですか?
オクタヴィアという少女が、シェルという殺人鬼に殺されるシーンです。
オクタヴィアとシェルが穏やかに会話している1ページ目は、コマのサイズがほぼ均一で、かつ小さめです。
そして続く「めくり」の1ページでは、大ゴマで、オクタヴィアがシェルに頭をつかまれて浴槽に沈められています。
▲和やかな会話から一転!「めくり」で読者に驚きを与えることができる。
――なるほど。この「単調なコマ割りからの大ゴマ」という演出は、不気味なシーンとの相性が非常に良さそうですね!
小道具に工夫を!!
――将也の視界に現れる「バツ印」は、『聲の形』に登場する「小道具」の中でもかなり印象的です。思いついたきっかけはありますか?
▲教室中を埋め尽くす「バツ印」。将也の周囲への不信感を見事に表現している。
こればっかりは、「ひらめいた」としか言えないんです。
教室のクラスメイト全員に「バツ印」がついている見開きのシーンを思いついて、担当さんも「それは面白そうだ」と言ってくれたので、採用しました。
「バツ印」が顔からはがれたり、もう一度ついたりする演出は、将也の気持ちを表現する上でかなり役に立っていますね。
――他にも、「キャラの気持ち」を表現するために使った「小道具」はありますか?
将也の「シャーペン」です。限られたページ数で、将也の感じている「退屈」を表現するために使いました。
日常でも、退屈な時ってシャーペンをカチカチやりますよね(笑)。
漫画は、短いページ数の中でいかにキャラクターの気持ちを描けるかが大切なので、小道具の工夫はおすすめですよ。
▲将也の「シャープペン」。身近なアイテムが「退屈」を伝える小道具になる。
――「小道具」とはちょっと違いますが、「将也の姉」も存在感がありますよね。家族の中で唯一、顔がきちんと見えるシーンがありません。何か理由がありますか?
まぁ、面白いかなってノリな部分もありますが(笑)、将也と硝子のドラマに無関係だからです。
極端に言えば、もしかしたら読者の皆さんからすると「いなくてもいいキャラ」なんです。
でも、将也の人格形成に大きく関わっているキャラクターなので、私的には「当然そこにいるキャラ」なんです。
『聲の形』という物語には必要ない、だけど、そこにいないのはおかしい。
その二つを両立させるために、今のような描き方になりました。
――ちなみに、将也の人格形成に関わっているとは?
姉の歴代の彼氏達が、将也の性格に大きな影響を与えています。
将也は小さい頃から、「姉の彼氏」という沢山の大人達と交流を持つことで、「根拠のない自信」や「何でも怖がらずに面白がってしまう性格」を身に付けたんです。
おススメの漫画トレーニング!!
――では、「演出力」を磨く上で、お勧めの練習法はありますか?
「練習法」というと大げさですが、私、コントをよく見るんです。コントって、短い時間の中で「笑い」を作らないといけないですよね。
そこが、限られたページ数で読者に魅力的なお話を見せないといけない漫画と似ていて、参考になるなぁと。
――なるほど、面白い発想ですね。大今先生のお勧めの芸人さん、コントはありますか?
「しずる」さんの「超能力コント」ですね。冒頭、ザワザワとした都会の雑踏の音が流れます。
そして、歩いている二人がすれ違った瞬間に音が消えて、いきなり台詞が入るんです。
「わかってるよ。君も能力者なんだろ?」って(笑)。
これ、そのまんま「めくり」の応用ですよね。1P目が均一なコマ割りで都会の雑踏、次のページに大ゴマで「わかってるよ」という構成。
新人作家へアドバイス!!
――最後に、「演出」に悩む新人さんにアドバイスをお願いします!
漫画は、冒頭6Pまでに何か魅力がないと、読者が飽きてしまうと聞いたことがあります。
だから私は、漫画や、もしくは映画や小説に触れる時、「どこで飽きた」っていうのを覚えておくようにしているんです。
そして、「自分だったら、どこにどんな演出を入れるか」「どうすれば飽きずに最後まで楽しめたか」を想像するんです。
皆さんも、ぜひやってみてください。
――大今先生、貴重なお話をありがとうございました!
<作家プロフィール>
大今良時
第80回新人漫画賞にて『聲の形』で入選を受賞。
後に「別冊少年マガジン」にて『マルドゥック・スクランブル』(原作/冲方丁 単行本全7巻)を連載。
2013年に新人漫画賞受賞作をリメイクした読み切り『聲の形』が多くの支持を受け、同作は「週刊少年マガジン」にて連載。2016年にアニメ映画も公開された。2016年から「週刊少年マガジン」にて『不滅のあなたへ』を大人気連載中。
作者プロフィールイラスト:にしもとひでお
(C)大今良時/講談社 (C)にしもとひでお/講談社
※本記事は講談社『週刊少年マガジン』公式HP「マガメガ」内の新人賞企画「漫画家への花道」から特別掲載しています。