キャラクターの描き分け STEP.7 男女のポーズ【ペンタブ練習】
デジタルでのお絵描きやペンタブに慣れていない人の練習にピッタリ! マンガのキャラクターの描き分けができるようになるためのポイントを丁寧に紹介します。今回は、男女のポーズの違いについてです。講座を見ながら手持ちのお絵かきツールを使って練習してみましょう! (講師:平井太朗)
はじめに
今回は男女の「身体の動かし方」についてです。
もしあなたの住んでいる場所の近くにたくさんの人が集まる駅があったら、ぜひ出かけてみましょう。たくさんの人たちが歩いていますね。
颯爽と歩いている人、ちょっと疲れていそうな人、急いでいる人、楽しそうにおしゃべりしている人。いろんな人がいるでしょう。
その人たちは男性ですか?女性ですか?
なぜ歩いている人が女性、または男性だと判るんでしょう。顔、服装などの外見もあるでしょうが、その中に「歩き方」そのものも含まれていませんか?
身体の動きが男女の違いを含む「個性」の出るものだと気付くと、たくさんの人たちが歩く街が、途端に漫画を描(えが)く自分にとっての大きな教室になります。
男っぽく歩いている、女っぽく歩いている。それはどこのどんな動作でそう見えているんでしょうか。
今回紹介するのは、そういった「らしさ」のほんの一部分です。
でも、それを手がかりにもっとたくさんの「らしさ」を見つけることができたら、あなたのキャラクターたちはもっと生き生きと作品の中で活躍してくれますよ。
腕と手
立ち姿は男性と女性で違いがあります。これは骨格の違いなどに基づくものもありますが、もうひとつの要因もあります。それが本能にまつわる、「動物としての人間」の問題です。
ライオンのオスはより身体を大きく見せる(簡単に言うと見栄を張る)ために、大きなたてがみがあります。これは「より自分が強い存在である」ことを見せるために利用されているという説があります。
黒く立派なたてがみは強い証。それを見た他のオスは無駄な争いをさけ、それを見たメスは優秀な遺伝子を持つ雄だと認め仲良くなってくれます。立派なたてがみは、種の保存と密接に絡む本能に基づいて利用されているわけです。
人間も、実は同じです。身体が大きい方が喧嘩も強いし、男の子同士の喧嘩も避けられます。女の子の人気も集めやすい。(…まあ、モテるかどうかはそれほど簡単な話ではありませんけどね。)
男の子は自分の身体を大きく強く見せようとする、女の子は自分のパートナーにより強い男の子を選ぼうとするベクトルが働きます。大昔からの本能として。
あなたが男性なら左側、女性なら右側のシルエットを参考に肘から腕を上げたポーズを一体描いてみましょう。難しかったら鏡の前で観察しても大丈夫ですよ。
A手のひらを後ろに向ける/B手のひらを前に向けると、肩から肘にかけての形が大きく変わります。これは骨格の問題です。手のひらを前に向けると肘が胴体(体幹)に密着していますね。
男の子は肩幅も広いし骨格の問題で肘を体幹に密着させるのはちょっとしんどいんです。
体幹にたっぷりお肉がついていない限りは。
女の子は肩幅も狭く、男の子ほど手のひらを前に向けて肘を胴体(体幹)に密着させることが苦にはなりません。
女の子はA肩から腕へのシルエットが下に拡がる様なイメージ。男の子はC肩から腕へのシルエットが樽の形の様なイメージにすると「らしく」なります。
もうひとつが、腕の動かし方。男性らしい動作では、肘から腕先にかけて、大きく降るように腕を動かします。
どうしてかって?その方が「大きく見える」からです。こじんまり動いていたら、自分の体格以上に自分が小さく見えてしまうことを男の子は「恐れ」ます。
だって、小さくて弱かったら喧嘩をふっかけられてしまうかも知れない、という本能が働くから。
女性らしい動作では、肘から腕先にかけて、内側に回し込む(肘をあまり大きく動かさない)ように腕を動かします。
その方が「かわいらしく見える」からです。
座る姿
座っている姿で女性らしさ、男性らしさを考えてみましょう。
畳の上で正座している状態。椅子に座るのも基本的にはあまり変わりません。
男性は立っている時同様、肘を外に出します。そしてもうひとつ、膝も外に向けてみるとらしさがよく出てくると思いませんか?
女性は立っている時同様、肘を身体に寄せておきます。そしてもうひとつ、膝と膝を合わせて座らせてあげます。らしさが出てきましたね。
それぞれの説明を読んだら、下絵を参考に正座している「男女」を描いてみましょう。
難しければ、今度は誰かに手伝ってもらってモデルになってもらいましょう。
わからなければまず観察すること。そこからいろんな発見があるはずです。
男性が正座している時は、肘を外に出して手のひらを足の付け根付近に「ハ」の次になるように添えます。
膝の間をを少し開けておくと、男性が正座している姿に見えますね。
椅子に座っている時も基本的に肘を外に出していたり、膝の間を開けていたりという点で正座の時と同様です。
もっとリラックスして座っている時は深く腰掛けて、ガニ股になったり…ということになりますが「肘を外に」と「膝と膝を離す」というポイントを覚えておくといいですよ。
女性が正座している時は、肘を胴体(体幹)に近づけます。手のひらは自然に平行に近い形になります。
膝と膝をつけておくと、女性が正座している姿に見えますね。
椅子に座っている時も基本的に肘を体幹に近づけていたり、膝の間をつけていたりという点で正座の時と同様です。
もっとリラックスして座っている時は深く腰掛けて、肘と膝をくっつけて座ったりと、こんなポーズはなかなか女の子でないとできません。…いえ、別に男の子がやってもいいんですよ。
歩く姿
歩く姿を描くときはもう少しポイントが判りやすくなります。
男性らしい歩き方は、「肩で歩く」という意識を持ちます。
女性らしい歩き方は、「腰で歩く」という意識を持ちます。
歩くときは足を前に出すだけでなく、腕を振ります。実は「歩く」という動作そのものは全身の運動なんです。腕を振るために上半身がひねられます。右足を出している時は、左手が前に出ていますよね。つまり、肩も左肩が前にでるということです。
そのとき物理的に男性の方が肩幅は広いので、肩の動きが大きく見えます。女性は肩幅が狭いですが、比較的腰はしっかりしていますので、腰の動きの方が大きく見えます。
そんな意識をしながら、下絵を参考に歩いている正面の姿を描いてみましょう。
男性が歩くとき、手を動かすと肩の動きが大きくなるので、肩から先に腕を振っているようなイメージを受けます。ちょっと悪っぽい男の子が身近にいたら、ちょっと観察してみましょう。面倒そうに歩いている姿の時は見事に「肩から先に腕を動かしている」ことが判りますよ。
いわゆる「ガニ股」で歩く男性もいます。ガニ股で歩くときはあまり綺麗な姿勢にはなりませんが、街中ではよく見かけますよね。足下も気をつけて「歩く姿」を描くと「颯爽」というイメージや「のっしのっし」というイメージなど、キャラクターに合わせた歩き方も描けるようになりますよ。
女性が歩くとき、肩幅が比較的狭いので、腕を振っても肩はそれほど印象に残らず、身体全体をひねっているときに腰の辺りがよく動いているように見えます。
和服を着ていると自然に歩幅が短くなりますが、そんなときはもっと肩よりも身体のひねりの方が印象に残りやすくなります。
女性は、ヒールの高い靴を履くこともよくありますね。そんな靴で颯爽と歩いているとなかなか背中を丸めることはできません。そういう身体の構造だからです。
女性の場合、胸を前に出させてあげるとちょっとイメージが変化したり、キャラクターに合わせた歩き方も描けるようになりますよ。
らしさの演出
漫画の作品の中でキャラクターに細かな演技をさせるときは、上半身にスポットがあたることが多くなります。
限られたコマ割りの中でキャラクターに演技をさせるときには、ちょっとした動作が「こんな作品にしたい、こんなキャラクターとして描きたい」という演出に大きく影響を与えます。
そのときにちょっとだけ意識をしておきたい部分が「肘」です。
もちろんその他の部分も重要なんですが、肘に意識を持っておくと、それだけでも発見がたくさんあるはずです。
男性は「肘を胴体(体幹)から離して」ポーズをとります。女性は「肘を体幹に近づけて」ポーズをとります。
簡単なおまじないみたいですが、これを意識するだけでその他のポーズにもたくさん応用できるんです。もちろん例外も、ありますけどね。
下絵を参考に、カバンを肩に担ぐ男の子を描いてみましょう。いえ、「女の子」でこのポーズを描いてもいいんです。
そんなポーズをとる女の子はどんな性格でしょうか。そんなことを考えながら描いてみてください。
男性に片手で重いカバンを持ってもらいましょう。肩に担いで持つポーズはよく見かけますね。
ある程度の体力がないと思いカバンを持ち上げて肩に担ぐのはしんどいものです。
この時、肘に注目してください。胴体(体幹)から離れていますね。
女性に片手で重い鞄を持ってもらいましょう。肘にカバンをかけて身体に密着して持つポーズ、こちらもよく見かけますよね。
こうやって持つと、腕力がなくても身体全体でカバンを持つことができます。
この時、肘に注目してください。胴体(体幹)と密着していますね。
男性に大きなコップで飲み物を飲んでもらいました。大きく肘を開いて、反対の手は腰に当てていると…お風呂上がりにこうやって牛乳を飲んでいるおじさんが日本にはたくさんいるのです。
女性が大きなコップで飲み物を飲んでいます。肘をしめて、反対の手がコップに添えられていたりすると、「らしさ」が出せますよね。
年配の方が思う「男らしさ、女らしさ」と、若い世代が思う「男らしさ、女らしさ」は同じモノでしょうか?
おそらくほとんどの方が「違う!」と言うことでしょう。「日本男児」なんて言葉は昔はよく使われていましたが、今ではあまり聞かなくなりましたね…と言うより、これを読んでいるあなたは「日本男児」なんて言葉があったことをご存じでしょうか…!?大昔、ご飯を食べようと思ったら自分で動物や魚を獲ってくるか、自然に生えている植物やその実を集めてくるしかありませんでした。正直、そのときに重要だったのは体力だったのかもしれません。強くたくましく食べものを獲ってくることのできる男性は、女性にもてたことでしょう。だって、ご飯が食べられるんですから。
今ではお金を稼いでいる方がご飯をたくさん食べられる社会なので、ちょっと事情が変わってしまいました。昔はもてたはずの男性が、今はそれほどでもなくなってしまったのかも知れません。
今自分が思っている「男らしい」「女らしい」というイメージは、人間の本能の部分だけではなく、自分たちを取り巻く環境にも左右されているようです。
それでも、人間の本能の部分はなかなか変化しません。
実は男の子の方が恐がりだったり(だから強くなろうと努力するんです)、女の子の方が肝が据わっていたり(女性は自分の身を投げ打ってでも子供を守れるんですよ)、そんな部分に気付くと作品に出てくるキャラクターにも「深み」が出てくるのかもしれません。
そんな難しそうなことを言われても…と思うかもしれませんが、そうではないんですよ。
今自分が感じていることを素直に作品に反映させればいいだけなんですから。大丈夫、周りにいる友達や知人がきっとあなたの作品のネタになってくれます。
だから、漫画家はたくさんの友達が周りにいるととてもとてもありがたいのです。
(講師:平井太朗)
※この講座は、「ワコムクラブアカデミー」初級講座に掲載されていた内容を描きナビ編集部で一部抜粋・編集して掲載しています。