集英社『ジャンプSQ.』矢作康介編集長インタビュー(2)
人気マンガ雑誌の編集長さんに、これまで関わってきた作品や編集者の仕事、新人作家について考えていることなどをお伺いする企画「編集長の部屋」より、『ジャンプSQ. 』編集長・矢作康介さんへのインタビュー第2回(全3回)を特別掲載!
常に新しい作品を生み出し続け、新しい読者をお出迎えし続けないといけないと思います。
―― ジャンプSQ.は、今どんな雑誌を目指していますか?キャッチコピーはありますか?
とくにこれというキャッチコピーはありません。
うちはアニメ化する作品も多く、ファンタジー漫画が強いという印象を持たれるかもしれませんが、掲載作品に方向性や決め事があるわけではありません。
現代劇、歴史モノ、スポーツ、ギャグ、ホラー、どんどんいろんなジャンルの作品を挑みたいと思いますし、面白ければなんでもやろうと考えています。
入社した当時、ジャンプではトップ3(注:ドラゴンボール、幽☆遊☆白書、スラムダンク)はもちろんですが他の連載陣も強力で、新しい連載がなかなか残らない状況でした。
そして先ほどもお話しした通り、トップ3の連載が終了した際には本当に大変でした。
作品の終了と共に読者が雑誌を離れるのに、新しい読者を呼び込むための作品が無かった。
そもそも読者は本来、常に入れ替わり続けるんです。
だから、雑誌は常に新しい作品を生み出し続け、新しい読者をお出迎えし続けないといけないと思っています。
新連載は出来れば年間7~8本くらいは打ちたいと考えています。
それに読切作品を含め、いつ読者が来ても何か新しい事をやっているという状況を作りたい。
雑誌の中身を「これ」と決めて硬直化させることは、ゆるやかに自殺していくようなものなので、そうはしたくないと思います。
――新連載8本というは、どれくらい大変なのですか?
月刊誌で年間8本新連載をやるのはかなり難しいです。
新連載を打つ、という事はその数だけ終了作品も決めるということですから。
たとえば年に8本連載を開始して、うち4本が1年で終了したとすると、もう翌年は4本しか連載は打てません。
毎年ヒット作を2~3本残していく、という観点と、雑誌の内容を硬直化させない、という観点が必要です。
作品にもよりますが、月刊誌では1年間連載してもおよそ単行本2~3巻分にしかなりません。
つまり、めでたくアニメ化、とかいうことになって盛り上がったとしても、2年以上の連載期間が経過していないと売るための本がほとんど無いわけです。
そもそもある程度の原作のボリュームが無いと、原作の内容に沿った形でのアニメを作るのは難しいということもありますが。
つまり勝負を懸けていく作品については、時間をかけてしっかりと見守っていく必要があるんです。
――最近のSQ.誌面について、矢作さんご自身としてはどのような手応えをお持ちですか?
それぞれのマンガについてはかなり面白く充実していると思うのですが、ここしばらくは、自分の雑誌がなんか「やってる感」がない感じがしていました。
最近はようやく『終わりのセラフ』のアニメ化発表が出来たり、話題性のある読切企画が決まったりしてきていますが。
SQ.も創刊の頃は、横の編集部から見ていても元気で勢いのある雑誌でした。
ずっと同じに見えてしまうと、読者に手に取ってもらえない雑誌になってしまいます。
マンガ雑誌でクリアファイルがついていたりするじゃないですか。
その瞬間はちょっと欲しいな、と思うのですよね。
雑誌の中身が凄く面白ければ、それがきっかけで購読が始まりますよね。
この前、スピリッツで楳図先生のカレンダーが付いていて個人的にはかなり欲しいな、と思ったんですが、何か良い企画ありませんか?(笑)
▲アニメ化も決定した『終わりのセラフ』
原作を人気ラノベ作家鏡貴也、作画を同じくラノベ扉で人気のイラストレーター山本ヤマト、絵コンテ担当で、ネームや構成をマンガ家の降矢大輔が担当するという異色のユニット型作品。
ラノベも発刊されているが、そちらは講談社ラノベ文庫で発刊するなど、出版社や作者をクロスボーダーに組み合わせている。
―― ジャンプSQ.は、少年誌?青年誌?
あまりそういうカテゴリーの意識は無いですね。
せっかく雑誌名にも『少年』も『ヤング』もついてないことですし、いろんな層のマンガ読者に読んで欲しいです。
――SQ.19と本誌の位置付けの違いは?
前編集長の嶋が、売れるコミックスを出すチャンスの場を作ろうと、増刊を隔月化してSQ.19を始めました。
もちろん新人作家の作品を発表し将来の連載作家を育てる場、という役割もあります。
増刊での連載を足がかりに、本誌連載へと転じた作品もあります。
あらゆる意味で、本誌を支える重要な土台となっています。
最近では少年ジャンプやヤングジャンプでも増刊を増やしたりしていますし、他社でも別冊や増刊的な扱いの雑誌がかなり出ています。
各誌それぞれの状況に応じて増刊を企画しますし、いろいろな目論見が見てとれますが、現状のSQ.ではやはり新人作家を育てる場として機能させることを最優先すべきだと考えています。
―― SQ.には、どんな新人に来てほしいですか?
好きなキャラクターを全力で描いてきて欲しいと思います。
題材についても、新人作家は自分が好きで面白いと思うものを描かないと力が出せないと思います。
これなら誰よりも知っている、誰にも負けない、という題材があると強いですよね。
あとは、流行の映画やアニメなどからいろんな要素を取り入れて時流に乗る事も大切ですが、やはり子供の頃に浴びたシャワーを大切にして欲しい。
どんなキャラクターや作品からどんな感動や興奮を得たのか。
そういう作家本人の『根っこ』から枝葉を伸ばしている作品が見てみたいです。
なぜこれらがウケたかと言うと、発明や発見があるからだと思うのです。
―― 今のジャンプSQ.に欲しいテイストのようなものはありますか?
この2-3年のヒットマンガを見ていると、
『進撃の巨人』や『テラフォーマーズ』、『東京喰種』、『暗殺教室』などがあると思うのですが、なぜこれらがウケたかと言うと、発明や発見があるからだと思うのです。
ただ巨人が襲ってくるというプロットだけではそれほどの驚きはありませんが、あの巨人のビジュアルや凄惨なシーン、立体起動、壁などの設定、ああいうものが発明だと思うのです。
そういう新しい設定の中で、登場人物たちの恐怖や親子関係や友情、恋愛などの感情の有り様が設定にリアリティを与えています。
『進撃の巨人』ばかりを例にあげて申し訳ないのですが、メインプロットとサブプロットという考え方をすると、当初のメインプロットの“巨人を駆逐するための戦い”というストーリーラインは凄い発明ですが、サブプロットの“キャラクターたちの感情のやりとり”は人間を描いている、という意味ではどのマンガでもやっていることです。
自分が何者か分からず主人公が悩み苦しむとか、認められたいという承認欲求を持つ主人公が悪戦苦闘するとか、それは誰でも理解出来る感情だからこそ共感出来る。
世界観や設定の発明・発見の中で、作家の根っこから生まれる人間味溢れる魅力的なキャラクターを描くことが出来れば、オリジナリティ溢れる面白い作品になると思います。
口で言うのは簡単ですが(笑)テイストというより、そういう作品はヒットの可能性があると思いますし、欲しいですねぇ。
マンガには王道とかいう言葉が良く使われますが、そこにとらわれすぎるとそこから抜け出せなくなります。
主人公が死なないとか、ヒロインが裏切らないとか。さきほど挙げた作品はもうすでにメインストリームですよね。
―― メインプロットとサブプロットと別けて考えるところはとても面白いです。
そうですか。
例えば、ナルトが火影になるまでの話なんだ、と言ってもそれだけでは面白くないでしょう(笑)
誰からも存在を否定されている嫌われ者のナルトが頑張って、里や敵の一人一人と関わり合い、理解され認められていく。
その喜びは誰にでも分かってもらえると思うし、そこが面白いと思うんです。
―― ちなみに、やっぱりどこの雑誌の編集長とお話ししても『進撃の巨人』の話になります(笑)
そうなのです。いまはあれを読み解くのが重要なんです。
以前は、なんで『ONE PIECE』がウケるのか分解したことがあります。
各シリーズを分解してノートに書き出してみたら、キャラクターも話もめちゃくちゃ面白いんだけど、それだけであそこまで売れるとは思えない。
突き詰めると、海賊、絵、能力などの世界観の凄さにも気付きます。
『進撃の巨人』でも同じで、あれが、あの巨人でなかったら、面白くならなかったのだと思います。
諌山先生はなぜあの巨人を描けたんだろう。
妖怪とか悪魔が人間を口にくわえている絵を子供の時に見て強い恐怖を感じたりしたのかな?とか、いろいろ考えますね。
「毎回読者をちゃんとお出迎え出来る雑誌」にしたいと思っています。
―― 現在、ジャンプSQ.さんはどんなルートで新人がデビューしていきますか。他の出版社から来る人はいますか?
新人作家との出会いの場としては、うちが月例でやっている『クラウン新人漫画賞』、『芸大スカウトキャラバン』、『出張編集部』、週刊少年ジャンプと一緒にやっている年に2回の『手塚・赤塚2大賞』、『ジャンプスカウトキャラバン』、それに編集部への持ち込み、などがあります。
もちろん、他の出版社を経て来る方もいますし、並行して持ち込みをされている方もいると思います。
デビューについては、漫画賞受賞作品でデビューされる方もいますし、担当と打合せを重ねたコンペ用のネームを出して増刊デビューする方もいます。
―― 持ち込みから漫画賞を狙ったりのルートを作っていますか?
そうですね。
必ずしも漫画賞を獲らないとデビューできないわけではないのですが、いきなりネームコンペに挑むよりもデビューしやすいとは思います。
持ち込みや漫画賞最終候補に残ったりしたのがきっかけで担当編集がついて、打合せを経て漫画賞を狙うというのはよくあります。
月例漫画賞を取ったら、次は手塚賞や赤塚賞を、というケースもありますね。
――投稿者にアドバイスなどがありますか?
ページ数に制限があって、締め切りがあって、という漫画賞を目指すことは一番実践的な勉強になると思います。
賞を目指すことによって成長して、掲載に、連載にと繋げていって下さい。
持ち込みをする、というのもおすすめです。
編集者と話すことで雑誌の雰囲気も分かりますし、いろいろな視点で細かい生のアドバイスが聞けます。
まずは、好きだったり読んだことがあったりする雑誌に持ち込んで、合わなそうだな~と思ったら次の雑誌に行けば良いのではないでしょうか。
―― ジャンプSQ.は絵の上手い人が多い印象です。アニメ化に向いているような。
たしかにそうですね。
数多ある漫画の中で、とりあえず手に取ってもらう、読んでもらうために絵の力は大きいですね。
絵は単行本の売上にも繋がりやすいので、最近はどの雑誌でも重要視しているのではないでしょうか。
でも本当に上手いというのはデッサン力があったり、パースが取れたり、線がキレイだったりよりも、やっぱり個性だと思います。
ストーリーやギャグといった内容と絵の相性も大切です。
同じ雑誌の中で同じような絵柄ばっかりというのは良くないですし、ウチの今の誌面もバラエティに富んでいると思います。
―― 確かにそうですよね!良く聞かれることかもしれませんが、ジャンプSQ.と週刊少年ジャンプの違うところは、どういったところにあるのですか?
う~ん。あんまり考えたことがないですね。
自分の雑誌の読者をしっかり把握しておきたいとは思いますが。
アンケートでいうと、SQ.の読者は週刊少年ジャンプを併読している方が多いです。
週刊を読みながら月刊も、ですから漫画に対しての愛情が深い方が多いと思います。
―― 読者層はいかがですか?
読者の年齢層としては、週刊少年ジャンプよりは少し高めかなと思います。
年齢で言うと、25歳~30歳といったあたりが、一番多い読者層です。
平均年齢でいうと27歳位でしょうか。
性別は男性が70~75%くらい。
女性読者はコミックス派の方も多いのではないでしょうか。
アニメや映画やゲームについての関心の高い方も多いようです。
―― 月刊誌と週刊誌に違いはありますか?
月刊誌はどうしても話を脇道にそらせづらいというのはあります。
主人公が出ない話が2~3話続くというのは難しい。
読者はやはり主人公の活躍を見たいと思いますので。
それにいわゆる毎回毎回のヒキ(ラスト)の重要性はさらに高いと思います。
翌月まで覚えていてもらえる展開にしないとならないので。
―― SQ.では、読切や連載をどのように決めていますか。
読切も新連載も会議で決めています。
本誌の連載会議は年に3~4回行っています。
本誌の読切は不定期で、増刊の読切については2か月に一度会議をします。
増刊に回ってくる読切ネームは8割くらいが新人作家さんのものです。
会議はすべて、私(編集長)と副編集長、班長2人の計4人でやります。
増刊では誰か一人が強く推す作品があれば、掲載してみることもあります。
失敗することも多いですが(笑)。
もちろん、最終的な掲載の判断は私がします。
―― 特定の編集長枠や、特枠はありますか?
特別決めているものはないです。
もちろん私が推すものが載ることもありますが。
連載会議では自分だけが推す、というケースはほとんどありません。
―― 作家の年齢などを気にして決めることはありますか?
もちろん漫画賞などでは将来性という意味で年齢も見ます。
どれくらい絵が固まっているかとか、どのくらい伸びる余地がありそうなのかとか。
また、ウチの雑誌以外であれば活躍するかもしれない人を、足止めしないように考えたりします。
SQ.っぽくない雰囲気とか違和感とかを持つ作家さんも欲しいですが、イコールそれが絵柄や題材などの古さだったりとかではないと思います。
―― 編集方針を全体に伝えるようなことはありますか?
連載会議や増刊の会議の都度都度で、雑誌そのものや連載の陣容についてなどの中長期的な方針を話したりはします。
ただ、編集方針として「自分はこういうマンガが欲しい」と言い始めてしまうと、40代の私の年齢でクラスマガジン化してしまいます。
雑誌にはバラエティが必要ですし、一番は読者を向いて雑誌を作らないといけない。
そういう意味で読者に近い若いスタッフ中心で、
それぞれが好きな漫画を作って「毎月新しい読者をちゃんとお出迎え出来る雑誌」を目指しています。
―― 編集部の構成はどうなっていますか。
編集部員は私を含め男性8名です。漫画の編集は社員だけでやっています。
インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 菊池、番野
※本記事は、マンナビ「編集長の部屋」から特別掲載しています。
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