小学館「ちゃお」井上拓生編集長インタビュー(3)
2002年に少女誌売上トップに上り詰め、以降少女誌トップ、漫画雑誌全体でもトップ10に少女誌で唯一ランクインし続ける(※)少女誌の女王『ちゃお』の編集長・井上拓生さん(2017年現在は『sho-comi』編集長)のインタビュー第3回(全4回)。※日本雑誌協会調べ
マンガを手段として考えている作家が欲しいです
-編集方針やポリシーはありますか?
子供相手の雑誌なので過剰な暴力表現や性表現は当然抑えます。
そのうえで、コマ割りを含めてわかりやすいマンガを作ることを心がけています。
ちゃおは初めてマンガを読む子の雑誌ですから、コマの追い方を含めて迷わせちゃったらそれでアウトなんですよね。マンガの読み方がわからないせいで諦められてしまうことは絶対に避けたいんです。
極端な話、全員が全員声を揃えて面白いっていうマンガってないじゃないですか。だけど10人が読んで10人がとりあえずきちんと内容を追えるマンガは作れる。それは単純に技術的なことだと思っています。
とにかくコマ割りやネームのわかりにくさは校了でうるさく指摘しています。
趣味って、どうしても趣味の中の人たちにしか通用しない記号だったり、ルールだったりが深くなればなるほど出てくるわけじゃないですか。
僕が気になっているのは、マンガって編集もマンガ好き、マンガ家もマンガ好き、ってマンガ好き同士が作っているから、すごくリテラシーが高くなっちゃっているところがあると思うんです。一般の人が入りにくいというか。
例えば、いわゆる萌えポイントだったり、ここってなんかいいよねっていうニュアンス感のところは一般的な楽しさじゃなくて、マニアやファン同士にしか通用しないような感情のやり取りになっているところがあって。
そこは僕が、今いちばん危惧しているところです。
だから、ちゃおはとにかく子供にもわかりやすく、きちんと楽しめるマンガを作ってヒットさせるということが、僕が目指していることです。
-最近の新人さんはどんな人が多いですか?小学生、中学生でデビューっていう印象が強いんですが。
20代の人が多いです。
20代前半とかでなく、広く20代という感じ。
結局前に言いましたけど、ストーリーに仕上げるレベルまで持ってくるのは結構レベルの高い技術を要求されるので、どうしても年齢を重ねないといけない。それに気力も含めた体力も実際必要です。
プロのマンガ家は継続して描き続ける力が必要ですしね。
-今と昔で新人さんの傾向は変わっていたりしますか?
ちゃおではあんまり変わっていないと思います。
2006年1月号(左)と2016年1月号(右)
10年前のちゃおと最新号のちゃお。新人の傾向は変わらず、大人気少女漫画を輩出し続けている。
-ある作家さんが、少女漫画家には感性型とストーリー型がいて、ストーリー型は長持ちするけども、感性型は自分の年齢がある程度上がると、なかなかプロとして続けていくことが難しくなっていくと聞きました。ちゃおでもそいういことはありますか。
そうですね。
だた、その作家さんの感性のどちらかがゼロでどちらかが百と言うことはまずないので、
作品によって、その時のキャリアによって、どちらにどれくらい力を入れていくかで、変わってくると思います。
-どんな新人さんに来てほしいですか?
ハードルを上げてしまうけれど、なにか魂のあるタイプの作家が欲しいですね。
表現したいことが溢れそうなくらいあって、作品としてどう消化したらいいんだろうって困っているくらい、貪欲な人がいいです。
少女マンガの投稿作品って男の子と女の子が出会って、最後はハッピーエンドだからどうしてもテンプレート化しやすいんですよね。
「ああ、この手の話548回読んだな」みたいな。
新人の子の話って本当にハンコで押したような話でいっぱいですからね。
マンガって優れた表現手段で、日本が誇るひとつの文化だと思うんですけど、それでも僕は1つの表現の手段でしかなくて、最終的には表現者として、何を読者に伝えたいのかってことの方が大切だと思っています。
最近のマンガって手段自体に価値が見出されすぎている気がして、その先にある表現者たる何かになれていない作家さんが多いと思うんです。
自分のメッセージを伝える手段として、マンガが一番適しているから描いているんだって人がもっと増えてほしいですね。
-少女誌を目指しているけれど全然ダメで、全く結果が出ないで煮詰まっている人達ってどうしたらいいんでしょうか?
こういう言い方をすると身も蓋もないんですけど、結局才能の世界だからダメなものはダメなんですよね。
努力した先に必ず結果があるなんてそんな楽なことはないんですから。
僕の子供も野球やっていますけど、みんなプロ野球選手になりたくても、申し訳ないけどどんなに練習したって叶わなかったりするんですよ。
甲子園見てください、野球のエリートばっかりで、練習量も変わらないはずなのに頂点に立てるのは1校しかなくて、その中でもプロ野球に行ける人って何人もいないですよね。
最近は才能の世界の残酷さを甘いお砂糖でくるんじゃっているところがあると思うんです。
申し訳ないけど、才能のある人が勝ち残っていく世界だし、ある程度ダメだったら見切り付けて違う人生を見つけた方が絶対幸せになれると思います。
マンガ家になることが目的じゃなくて、マンガ家になった後に自分の表現したいことを読者に届けるのがゴールなんだと思うんです。
まずマンガ家になることだけを目的にしている時点でダメですね。
それと、皆マンガから学びすぎている気がします。
さっき言ったテンプレートもどこかで読んだ誰かのマンガを自分の中でトレースしているだけなんですよ。
表現の世界には音楽もあるし、映画もあるし、小説もあるし、演劇もあるし、もっと色々なエンタメから学んだ方がいいと思うんです。
昔、編集者は作家に本を薦めろとか一緒に映画を見に行けと指導されたりして、表現に対しての刺激をいろんな角度から編集と作家で一緒に受けようとしていたんですけど、今はこういうのが萌えだよねって決めつけているところがあるというか。
そういうことじゃないんですよね。
-他の編集さんによると、少女誌・女性誌は少年マンガと比べると、「パンチがキスに変わっただけ」とおっしゃっていました。
1つの言葉遊びとしては面白いですけど、別にちゃおはキスを売りにしているわけじゃないので。
けど、共通しているところとしては、魂が入っているかどうかが大切なところでしょうか。
キスシーンってたくさんあるけど、このキスシーンはすごいってなるのは魂の違いですよね。
マンガ雑誌って面白いなって思うのは、印刷された大量生産品なのに、作家や編集の熱い思いがめちゃめちゃ伝わってくる商品なんですね。
気持ちをどう表現するか、自分はこれを伝えたい、描きたいんだっていう熱い思いをどれくらい誌面を通じて読者に伝播させていくかってことが勝負になるんです。
それって理屈じゃないんですよね。
こうすればこうなるって言えないんですよ。
明確な掲載ステップ
-少年誌、青年誌を読みなれている私からすると、ちゃおでは連載が終わった時点ですでにその作家さんの次の連載が確定しているところに驚きました。
ちゃおは、全部の連載を長期で固定しすぎちゃうと読者が入れなくなってしまうので、意図的に6回とか連載の枠を決めて、そこでリズムを作っているんです。
いわゆる青年誌的な終わり方。人気がないのでやめましたではないですね。もちろん作品が終わる本当の最終回もありますが。
6話分のひとつの形が最初から設定されているので、次の作品を考えているのはある意味計画的なことなんです。
-連載が終わっても次が決まってしまっている中、新人さんはどう入り込めばいいんでしょうか。
連載と連載の間にもし2か月あれば2枠空くのでそこによみきりを載せたりしますよ。
そこで人気が出れば次の3回連載枠はこの作家にしようかとか、連載のコンペに入り込めます。
-3回連載や6回連載があるようですが、他はありますか?
よみきり、3回連載、6回連載、長期連載です。
基本的には、増刊のよみきりでアンケートが良くて、次に、本誌よみきり掲載で人気が出て、3回連載やって、6回連載やって、最後に長期という形。明確にアンケートで何位以上なら上がるというのは無いんですが、基本的に人気のあるものを相対的に判断しています。
例えば、よみきりで人気が出ても、3回で人気が出なければよみきりから再チャレンジになります。
-今までインタビューした雑誌の中で一番明確です。
もちろんそこに雑誌の全体のバランスや雑誌としての仕掛けがも入ってくるから、
必ずしもアンケートの上から順番に連載を切り替える作品を選んでいるわけじゃないですけど。
インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 菊池、福間、大橋
※本記事は、マンナビ「編集長の部屋」から特別掲載しています。
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