【お寺×ファンタジー】もくりさんの世界観が伝わるイラストの描き方

もくりさんのラフ画制作術

コンセプトがしっかり練られた作品は見る人を魅了します。人気イラストレーターもくりさんがどのようなことを考えながらイラストを描いているのか、ラフを制作する工程を詳しく紹介します。絶賛発売中の『表現したい世界を描く! CLIP STUDIO PAINT PRO イラストレーションテクニック』から特別掲載!

 

作品テーマを決める

 

作品テーマは「お寺」。

ある日、TVでふと見かけたお坊さんの袈裟に目が行きました。

 

左肩の紐が下がっていて、最初は「ずれたのかな」と思うも、そういう着方なんだと認識した瞬間に「お坊さんてお堅いイメージだけど衣装はアシンメトリーで意外にラフだな……かっこいいかも!! 」と思い、描いてみたくなったのです。

 

作品では白ベースの袈裟ですが、実際には青・黄・赤・白・黒の5正色を避けて作るようです。

 

 

メインキャラクターの設定

メインキャラクターはお寺の住職である男の子。

「遥かなる可能性を秘めている」の意で、名は「遥」としました。

 

見た目とは異なり、かなりのご長寿さん。
縁側でお茶を飲むのが好きで、住職なので落ち着きがあり、達観しているといった人物像を思い浮かべました。

 

 

表情には子供っぽさが出ないよう、特に口の形にこだわっています。
ほんの数ミリ大きくなるだけでだいぶイメージが変わるので、一番気を遣いました。

 

 

サブキャラクターの設定

遥の傍にいつもいるのが、門番兼身の回りのお世話役である二羽の兎。

阿形像と吽形像の2体を一対とする仁王像からイメージしました。

 

 

お寺には、たくさんの兎たちが修行をしていて面白おかしく生活している設定です。

 

人に化けることができ、大きなポンポンのような尻尾が特徴。
尻尾で弾み、高所までジャンプできます。

 

「侵入者は100発100中、こん棒振り回してぶっ飛ばすぜ!」。

 

兎たちのキャラクター設定も考えておきます。
黒い兎は“阿ノ兎”であり、名は「アト」くん。
かなりの食いしん坊で、人に化けると意外にイケメンだったりします。

 

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白い兎は“吽ノ兎”であり、名は「ウト」くん。
炊事、洗濯が上手です。人に化けると可愛い系……かな?

 

 

衣装デザインを練る

 

衣装デザインを考えます。私にとって一番楽しい作業です。
通常はイラストの構図と同時に考えますが、ここではわかりやすく人物単体で描いてみました。

 

 

衣装デザインの手順は、まずテーマ決めから。

今回は「袈裟がポイントのモードな僧侶風」です。

 

ここで、どんな衣装にしたいかを自分の中で明確にしておくことが大切です。

 

要素を盛り込みすぎてまとまらなくなったり何か不足しているなと思うときには、必ず最初に考えたこのテーマに戻ってきます。

 

 

テーマから連想されるキーワードを挙げておきます。

「袈裟→僧侶→数珠→木魚→お経→仏像→蓮の花→孔雀」
といった具合です。

 

このキーワードは衣装だけでなく、背景を描く際やイラスト自体のテーマを決める際の材料にもなります。

 

 

テーマに沿い、ベースとなる衣装やアイテムを設定します。

今回は「僧侶スタイル」という大テーマがあるので、最初にTVを見て惹かれたお坊さんの衣装を思い出しながら描き出してみました。

 

最初に良いなと思ったイメージが塗り替えられてしまわないよう、新たな資料などは見ずに頭の中の残像を復元しました。

 

 

ベースの衣装から、要素の足し引きをしていきます。

衣装デザインの基本的な進め方として、私が心がけていることは2つ。

 

まず1つは、「デザインは足し算と引き算が基本」ということです。

 

入れたい要素をただ足すのではなく、ある程度足したら引き算をします。
それにより、衣装にまとまりが出てきます。

 

足し引きできないときは、パーツをチェンジしてみます。この方法は、衣装に限らずどのデザインにも有効です。

 

 

衣装デザインでもう1つ心がけているのは、「キャラクターの動きや構図にも配慮すること」。

 

通常は構図とともに、キャラクターの動きとの兼ね合いを考えながら衣装を決めます。

 

身体のラインが出るような衣装ではあまり気にしませんが、ゆったりとした衣装で動きのあるポーズを描きたいときは、構図を優先します。

 

実際の製作過程

今回の衣装の制作過程は、まずベースの衣装を描き、次に足し算をしました。

 

(1) まずはベースとなる「お坊さんの袈裟スタイル」を描いてみます

前裾丈のみを引いて後裾丈を残す手もありますが、キャラクターの身長が小さい想定や、構図との兼ね合いで今回は裾丈全体を短くしました。

 

(2) ベースの衣装に盛り込みたい要素を足します。

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男らしさを出すため、ブーツインのパンツスタイルに。

 

そしてパンツスタイルが見えるよう、着物の裾丈を短くしました

 

(3) モード感を出すため、着物の襟と裾のデザインを変えました。

 

襟はチャイナ風に変え、裾はシャツラインにカット。

 

また、袈裟が映えるよう、色を白に変更しました。
襟や裾を海外テイストにしたので、袖の部分は和風のまま残します。

襟元がすっきりしたので、その分の足し算をします。
ここでは、袈裟に金縁やタッセルなどの装飾を入れて豪華にしました。

 

袈裟の柄は、最初に連想したキーワードから神々しいイメージの孔雀に決めました。

 

デザイン全体のポイントは袈裟を引き立て、他はシンプルに

 

着物の色は黒に押さえ、そのぶん裏地の色を変えたり、布の切り替え線を入れるなどでアクセントにしました。

 

ブーツも装飾を入れず縦ラインのみで足袋らしさを表現しています。
袈裟以外は洋服になるので、黒と紫の配色で僧侶風のイメージを持たせました。

 

(4) 襟元をすっきりさせた分、袈裟に装飾を入れて豪華にします。

 

袈裟の柄に神々しいイメージの孔雀を描いて、デザインが完成!

 

 

背景や構図を考える

 

●物語の舞台

舞台設定は、境内のお堂。

 

実際のお堂の中って暗いのですが、よく見ると瓔珞の金が美しかったり、天井に龍が描かれていたり、彫刻が細やかだったりと、心惹かれる部分がたくさんあります。

 

そうした要素を取り入れながら、色彩豊かな一枚絵にしたいと考えました。

 

●絵の構図
構図は、経巻が円形状にきれいに広がって見えるよう、上から見た図にしました。

 

弧を描くようにかっこよく経巻を開きながら、その経巻自体にも何か面白い要素を盛り込みたいと考えました。

 

人物を中心に、経巻が弧を描いている流れを生かし、背景全体も円形状にしていきます。

 

もっとも私の場合、そもそも円や曲線が好きなために、円をモチーフにした背景を描くことが多いです。

 

●バランスを考える

配置バランスとしては、衣装を含めたキャラクターを一番に見てもらいたいため、まずは人物を大きめに配置します。

 

他の要素に関しては、ディテールの描き込みに注力していきます。
「背景のちょっとしたところまでも細かく描きこんである絵」ってついつい魅入ってしまうんです。

 

なので、「よく見たらこんなところに!!」などと発見しながら楽しく見てもらえる、そんな絵にしたいなと思いながら描いていきます。

 

●小物を配置

構図やキャラクター設定とともに、描きたい世界観に関連するキーワードから思い浮かぶ小物なども描いておきます。

 

 

描いたことのないものは、まず一度描いてみるとイメージを掴みやすくなるので、ざっくりとスケッチ。絵の中に実際に入れるかどうかに関わらず、思い付くイメージは何でも描き出してみることが大切です。

 

カラーラフ

▲最終的なラフ

線画

▲完成した線画

 

 

※本記事は初級者からもう一段レベルアップしたい読者に向けたイラスト技法解説書、『表現したい世界を描く! CLIP STUDIO PAINT PRO イラストレーションテクニック』(ビー・エヌ・エヌ新社)のからの特別版抜粋記事です。

 

 

記事内の構想から、この後どのようにして完成イラストを仕上げていくか気になる方はぜひ実際の書籍をチェックしましょう!

 

記事内で紹介させていただいたもくりさんをはじめ、各作家さんが試行錯誤しながら培った、“描きたい絵を思い描いたとおりに仕上げるためのコツ”が満載です!

 

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『表現したい世界を描く!CLIP STUDIO PAINT PROイラストレーションテクニック』

 

 

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