【後編】佐藤秀峰先生に聞く漫画の描き方「デジタル作画で僕が気をつけていること」
『海猿』『ブラックジャックによろしく』などのヒット作で知られる漫画家・佐藤秀峰先生。その佐藤先生が今回はアナログ作画とデジタル作画両方の経験をふまえて自分自身で気をつけている作画上の注意点を紹介いただきました!後編は、構図やカメラ位置など、ページ全体を意識したコマ割りの技術について解説しています。
前編の記事中、サンプルに使ったイラストは、「Stand by me 描クえもん」という作品の中の一コマを加工したものでした。
「マンガ on ウェブ」と「トーチweb」で連載中です。
あくまで解説のサンプル用に加工したもので、作中に同じイラストは登場しません。
実際に作中で使用したのは下記のイラストになります。
実は背景を一切描いていないイラストなのでした。
人物だけを描いたイラストに…
背景全体にグラデーションのトーンを乗せて、筆ツールとぼかしツールを使って白い部分を作って…
手前の人物にトーンを乗せると出来上がり。
超簡単。
なんとなく夜景っぽい雰囲気に仕上がりました。が、この絵をだけを取り出すと、どのような場所を描いているのかよくわかりませんよね。
このイラストを使用したページ全体を見てみましょう。
メインの2人が夜の商店街を歩いていると、道の向こうに別の男が立っているというシーンです。
が、背景が全く描かれていないはずの最後のコマの絵が、なぜ「商店街」に見えてしまうのでしょうか。
それはこの絵に「商店街の夜景」と認識できてしまう仕掛けが施してあるからです。
1コマ目は商店街の夜景のロングショット。
まずは物語の舞台がどこであるかを示します。
2コマ目はその中を歩く2人。
ここも背景を描き、1コマ目の風景の中に彼らがいることを示します。1コマ目で細かく夜景を描いていますので、このコマでは背景はラフなタッチでも十分です。人物に目がいくように心がけました。
ぱっと絵を見た時に、まず右上のフキダシを読んで、次に人物、最後に左上のフキダシに目がいくはずです。読む順番に迷いが生じないようにそれぞれの配置位値を決めてあります。男が話しかけ女が答える。次に話を続けるのはどちらでしょう?
3コマ目。会話を続ける男にズームします。
4コマ目はそれに答える女。やっぱりズーム。
3コマ目と4コマ目が並んだ時に、人物の立ち位置が入れ替わらないように会話の順番を考えて作ってあります。これで2人が夜の商店街を並んで歩きながら会話しているという状況が、読者の中にすんなりと認識されます。
さらに本来、背の高さが違うはずの2人ですが、絵の中では目の高さが同じ位置になるようにしてあります。こうして視線レベルを一定に並べておくと、読む時に読者はスムーズに視線を移動できます。また、2人の間に対等な人間関係があることを暗喩できる場合もあります。
もうひとつ言うと、2~4コマ目は読者が人物の立ち位置で混乱しないように、同じ位置から眺めた絵をズームして切り取っています。撮影カメラの位置を意識するわけです。
5コマ目はそのまま女の顔にさらにズーム。
状況を認識させ終わった所で急展開。女が何かに気がつきます。
それまでの4コマは横に2コマずつ配置されていますが、ここで横長の1コマを挟むことで場面転換が強調できます。
なんということでしょう。道の向こうに意味ありげに男が立っているではありませんか。
ここも横1コマです。大事なシーンなのでページの中で一番大きいコマにしました。
彼らはずっと商店街を歩いていたわけですから、最後のコマに背景がなくともそこが当然商店街であると認識できる仕組みです。
…と、漫画の技術論的なこというと、こんな感じになります。
雑誌掲載を意識する場合は、見開き単位で隣り合わせになるページとのバランスを見てページ全体を設計します。
見開きで2ページが並んだ時に似た構図の絵がないようにしようとか、キャラクターの顔の大きさは、意識的に行う場合を除いて、アップやロングを組み合わせて同じ大きさのものがないようにしようとか、コマ組みが隣のページを揃わないようにしようとか、読者が読みやすいようにいろいろと気を遣います。
でも、これってアナログの文法なんですよね。
デジタルだとスマホで閲覧する場合、まず見開き単位で漫画を読むということがありません。1ページ単位の表示か、コマ単位の表示もあり得ます。コマ単位の表示では、漫画的なカット割りをするよりも映画的なカット割りをしたほうが効果的かもしれません。
日本の漫画の場合、右上から左下に読んでいくのが常識なので、その常識に沿ってフキダシが配置され、画面が設計されていますが、コマ毎に切り出してしまうとその常識も不必要なものになってしまいます。
て言うか、デジタルならそもそもセリフが文字である必要もないのでは…
声優さんに声を当ててもらって、カラーもモノクロである必然性がないですし、実際にデジタルはカラーコミックが増えていますね。
もう絵を動かしちゃいましょうか。
アレ?それってアニメじゃね?
極論を言ってしまうと、デジタルでは漫画が漫画である必要がありません。
なので、僕はデジタル媒体で作品を公開する場合でも、アナログ時代の漫画の文法を意識し、漫画が漫画であることを忘れないように描くことを心がけています。
■佐藤秀峰
大学在学中より漫画家を志し、福本伸行、高橋ツトムのアシスタントを経て1998年『週刊ヤングサンデー』(小学館)に掲載の『おめでとォ!』でデビュー。
『海猿』や『ブラックジャックによろしく』など、綿密な取材に基づいた人間ドラマを描く。
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