気になるマンガ業界の裏側、聞いてみました!『Sho-Comi』編集部座談会【前編】

3人の女性の写真

漫画家と編集者はどんな関係にあるのか。小学館発行の人気コミック誌『Sho-Comi』編集部の萩原綾乃編集長、デスクの佐々木美記さんと金井順子さんの3人に座談会形式でざっくばらんに語ってもらった。作品は作家の分身でもあるだけに、それを受け止める編集者との間には絶対的な信頼関係が不可欠。その絆はどう結ばれるのでしょうか。

編集者は作家にとって「一番のファンであり理解者」

 

――作家との関わり方について教えてください。

 

佐々木: 私は『ういらぶ。』を連載中の星森ゆきも先生の担当なんですが、打ち合わせのときはいつも二人で作品について熱く語ってます。この間も作品に出てくる凛君の“萌えポイント”について何時間も話しました。

 

佐々木さんの写真
▲“萌えポイント”について何時間も作家と話すというデスクの佐々木さん

 

――え、何時間も? キャラについてだけで?

 

佐々木: 時間を忘れちゃった、というのが正しいかも(笑)。作家さんの「萌え」に対して、自分も共感できるのがうれしい。凛君は、好きな女の子をめっちゃいじめるキャラなんですが、正直言って、読者の中でも好き嫌いは分かれるだろうなあ、って思います。でも、星森先生と二人で「凛君は、いじめながらも主人公のことをすごく愛しているだろうから絶対大丈夫だ。この萌えはわかってもらえる」って励まし合って突き進んでいく。その作業がすごく楽しいんですよね。

 

 

――キャラ設定は、取材やリサーチの中で生まれるんでしょうか。

 

佐々木: リサーチはすごくしていると思います。ただ、どちらかというと、作家さんの「こういう男の子が好きだ」という気持ちがすごく反映されている気がします。たとえば作家さんがあまり好きではないタイプの男の子だったら、こんなに面白く描けないと思うんですよね。まあ、私がこの男の子のキャラが好きすぎるというのもありますが(笑)。私が読んでズキュンとくるという、ここが好き! っていうのを毎回伝えています。

 

萩原: 最初は、あまりにあり得ない設定の男の子だったのでびっくりしたんですが、読み進めると、佐々木と星森先生の”萌え”がすごく伝わってきて、とても面白い作品に仕上がっていると思いました。

萩原さんの写真
▲「先生の”萌え”がすごく伝わってきます」、という編集長 萩原さん

 

 

佐々木: 作品の大ファンでもありますから、「こうしてくれたらうれしい」と伝えることが自然にできる。中学2年生がターゲット読者なので、すごく難しいところではあるんですけどね。

 

 

作品についてのぶつかり合いも真剣勝負

 

――作家さんと喧嘩をすることもありますか?

 

萩原: あります、もちろん!

 

 

――それはどんな時に? やはり締め切りとかでしょうか。

 

金井: それもありますし、特に原稿の修正はよく喧嘩になりますね。「このセリフ、もっとこうした方が面白いと思います」と率直に言うと、作家さんもこだわって作っているわけですから、もちろん、素直に聞いてくださるときもあるけど、納得がいかなければ「それはこういう意図で書いているから、そこを変えると意味が変わっちゃうんです」みたいになる。モノローグひとつで1時間もめたりとか。お互いに平行線で険悪なムードになっちゃったりもします(笑)。

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▲「真剣だからこそ、時には喧嘩もします」というデスクの金井さん

 

 

佐々木: そうそう、作品の内容で喧嘩することが多いですね。

 

金井: ただ、出版してみないとわからない部分もあるんですよ。結局は読者が判断することですからね。ただ、次に同じようなことになったときに、「前はこうしたからこうしよう」みたいな解決策が引き出しやすくなるし、チーム感みたいなものは生まれますね。

 

 

ピンチはチャンス? 苦楽をともにして生まれる作家との絆

 

――これはもう無理!というピンチに陥ったことはありますか?

 

萩原: ありますよー(苦笑)。以前、すでに予告を出していた大型連載の企画が飛んでしまったときがありました。作家さんの体調とか移籍とか、個人的な事情でたまにあるんですよね。表紙と巻頭カラーで50枚を予定していた作品だったんで、かなり焦りました。新たに表紙と巻頭カラーで雑誌を引っ張っていく50枚の作品原稿を作らなければいけない。それも、あと10日で50枚の原稿を仕上げなければならない。

 

萩原さんの写真

 

 

萩原: そんな状況のとき、ちょうど原稿があがった水瀬藍先生がいたんです。当時はまだ新人で部数もあまりない作家さんだったんですけど、水瀬先生に速攻で電話をかけて、原稿も予告カットも付録も作っていただいて。結果的に、見事な百万部作家になったんですよ。深刻なピンチだったんですけど、だからこそ思い切ったことができた。いま思うと、見逃していたかもしれないチャンスをつかむことができた好機だったなあ、と。

 

 

――「災い転じて福となる」ですね(笑)。

 

萩原: それから、忘れがたいのは、杉山美和子先生との震災のエピソードですね。ちょうど普段よりもページ数が増えてやる気満々でいたときに震災に見舞われたんですよ。先生の自宅付近が全部停電になってしまってアシスタントさんも来ることができないという状況で、そのときに先生に「ページ数減らしましょう」と言ったら、「大丈夫です、描きます」って返ってきたんです。

そもそも雑誌を刷れるかどうかもわからない状況だったんですけど、先生に頑張っていただいているのに、こちらもくじけていられない。先生も、アシスタントさんが来ることができない状況で、電気も止まっている中、一人で全部仕上げて持ってきてくれた。それが『花にけだもの』という作品なんですけど、やっぱりシリーズ累計100万部超えたんですね。緊迫した状況でパワーを出し切ったときに、作家さんはひと皮むける。本領を発揮するのかも……と思いました。

 

 

――才能が花開いたんですね。

 

萩原: 起爆剤となったんでしょうね。最終的に200万部までいきましたよ。「体壊すし、もう大丈夫だよ」って言ったんですけど、「こういう大変なときだからこそ、読者は楽しみを待ってる」って言ってくれて感動しました。水瀬先生や杉山先生のように、そういう苦楽をともにしたとき、絆も深まりますね。

 

金井: 確かに震災のときは先生たちがみんな頑張ってくれましたね。雑誌が出るか出ないかわからない状況のときでも、「絶対に原稿をあげたいし、読者はいまだからこそ明るい気持ちになりたいと思っているんだ」って、作家さんたちが異口同音に頑張ってくださった。それがいまでもすごく印象に残っています。

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▲編集部自慢の大ヒット作品たち

 

 

<インタビュー内に登場する作家紹介> 

■星森ゆきも

08年『Sho-Comi』増刊号にて漫画家デビュー。等身大のピュアラブに定評がある。現在Sho-Comiで連載中の『ういらぶ。ー初々しい恋のおはなしー』が大ブレイク中。主な作品に『そらときみと。』『恋するみつば』などがある。

 

マンガ表紙

『ういらぶ。ー初々しい恋のおはなしー』

 

 

■水瀬藍

06年に『Sho-Comi』増刊号にて漫画家デビュー。純愛と初恋を描く作風で知られている。主な作品に『なみだうさぎ〜制服の片想い〜』『ハチミツにはつこい』 『センセイと私。』などがある。単行本累計部数 は『ハチミツにはつこい』は全12巻で200万部、『なみだうさぎ〜制服の片想い〜』は全10巻で100万部を超えている。

(公式ブログ)+うさぎと小鳥+
http://minaseai.blog75.fc2.com/

 

マンガ表紙

『ハチミツにはつこい』

 

 

■杉山美和子

02年に漫画家としてデビュー。主な作品に『嘘つきくすりゆび』『花にけだもの』『True Love』『4月の君、スピカ。』などがある。単行本の累計部数は300万部を突破しており、『Sho-Comi』で絶賛大活躍中!

 

(公式ブログ)杉山美和子のマンガ家ライフ
http://blog.livedoor.jp/sugi_miwa/

 

マンガ表紙

『花にけだもの』

 

 

 

(制作:ナイル株式会社)
(執筆:園田 菜々)

 

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