マンガの最前線で活躍するには?『Sho-Comi』編集長が語るマンガ家の資質【前編】

編集長の写真

いま読者がもっとも求めているコミックとは何か。『Sho-Comi』の編集長、萩原綾乃さんに今の少女コミック誌のトレンド、そして新人の発掘法や育て方について尋ねた。一般雑誌ではツテがないと難しい作品持ち込みも、『Sho-Comi』では大歓迎なのだという。

 

 

読者にウケる男子やストーリーの変化

 

1201_7473

▲『Sho-Comi』編集長、萩原綾乃さん

 

 

――主人公の設定やストーリー展開など、少女コミック誌における最近のトレンドを教えてください。

 

萩原: 昔は、主人公がひどい目にあわされながらも努力をし、読者はそれを見て自分も頑張らなきゃと思う作品が多かったんです。いまは、すごく辛い・苦しいことを描くと、面白いと思ってもらえない傾向にあります。たとえば、昔は『エースをねらえ!』とかのように、主人公が苦境を乗り越えて成功する物語が主流だったのですが、いまは、困難はあるけど、その過程で楽しいことも十分ある物語が描かれるようになった気がします。

 

 

――読者のおかれている状況の変化でしょうか。

 

萩原: 多分、いまの中学生とか高校生って意外にストレスが多くて、コミック読んでるときくらいは楽しい気持ちになりたいんじゃないかしら(笑)。

 

 

――アンケート結果とかにもそういう傾向って顕著に出ますか。

 

萩原: ええ、出ていますね。もちろん、ものすごく辛いことが描かれた漫画があってもいいんですけど、「生きているとこんなに楽しいことがあるんだ!」っていうことがわかる作品がすごくウケるんですよね。それは昔と違って如実に表れていると思います。”登場人物の死”みたいなドラマチックな苦しいことよりも、「隣の席の子と親密になりました」という話を求めている。読者からは、そういう日常のこと、つまり、「もっと私のことを描いてほしい」という欲求を感じます。

 

女性の写真
▲「読者は日常で起きる話を求めている」と語る

 

 

――主人公の設定についてはどうですか?

 

萩原: 男子が変わりましたね。10年前、ドS全盛期だったんですよ。すごく俺様な、「俺のいうことを聞け」みたいな男子が流行っていました。いまは、どちらかというと誠実で、ありのままの自分を受け止めてくれそうな男子がウケるようになりました。男子が多種多様になってきたな、という印象ですね。ルックス的にも、ものすごく背が高かったり、肩幅が広かったりっていう男子から、女子かと間違えるほどに可愛らしい感じの男子が人気あったり。

 

 

――そういう読者の傾向を、作家さんに「いまはこういう男子がウケるよ」と伝えることはありますか。

 

萩原: いえ、最初に主人公のキャラを生み出すのはやっぱり作家さんですね。池山田剛先生が、俺様全盛期の頃に、「私は背が小さくて童顔の男子が好きなんだ」って言って、それを描いたらドンピシャでブレイクしましたね。

 

 

――あえてのカウンター・キャラで真っ向勝負をしかけたのはすごいですね。

 

萩原: そうなんですよ。本誌でもただ一人でした。しかも当時、池山田先生はまだ新人さんだったんです。最初に描いた読み切りで、そういう男子を描いたらすごく人気が出て、そのまま連載になった覚えがあります。いまも男子のキャラについては、つねに探ってます。どういう男子が好かれるのかっていうのをモニターの子に聞いたり、渋谷の「マクドナルド」とかでお茶しながらずっと女子中学生の話に聞き耳を立てたりしながらね。

 

女性の写真
▲時にはマクドナルドで学生の声をリサーチ!

 

 

――ちょっとなよっとした感じの男子が人気のイメージがあります。

 

萩原: というよりも、とにかく誠実。男子の方が照れちゃうとか。昔はぐいぐい攻めていたのに、いまはどちらかというと初々しい男子が出てきてるなあって。ガンガンリードしていく男子ではなくて、いまは同じペースでゆっくり恋をしていこうという感じが好まれるようです。

 

 

――作家さんは、どうやって”今どきの”キャラクターを生み出すのでしょうか。

 

萩原: 時代は変わっても、人を好きになる気持ち自体は今も昔も変わらないじゃないですか。だから、たとえば、先生と打ち合わせをするときに、延々と高校時代の思い出話を聞くんですよ。「マラソン大会ではこういうことがあって」みたいな。そうするとね、「それだ!」みたいなエピソードとかキャラが出てくるんですよね。

 

 

――自らの体験や思い出がベースなんですね。

 

萩原: そうですね。そういうリアルな部分が読者の共感を呼ぶんだと思います。

 

 

持ち込みは大歓迎! まずは最後まで作品を描き切ってみよう

 

――持ち込みの電話がきたときって、編集部はどんな感じなんですか?

 

萩原: みんな電話取るの早いですよ。果敢に取ります。持ち込みの連絡が入る番号って決まっているんですが、2コール目くらいには絶対に誰かが取ってます。

 

 

――え、そうなんですか。持ち込みをするほうは、「断られるんじゃないか」ってすごく不安に思っている人も多いと思うのですが……?

 

萩原: 確かにそういうイメージがありますよね。ところが、実際は「どんどん来い」という感じ(笑)。編集者も「新人の作品は、誰よりも先に自分が読みたい」という貪欲なスタッフが多いので。

 

スタッフの方々

▲編集部には、貪欲なスタッフの方々がいます!

 

 

――編集部全体で検討するわけではないんですか。

 

萩原: 通常は、持ち込みの時点で「イケる」と思えば、名刺を渡して自分の担当にしちゃいますね。ただ、才能は感じるけど、ピンとこない場合は、賞に入れてみんなに見てもらうというケースもあります。絵はうまいけど内容は自分と合わなそうと思ったら、原稿をもらって月例賞に入れたりするんです。そうすると誰かしら担当者がついたりするので。だから、「原稿預からせてください」と言われたら相当有望です。

 

 

――なるほど、チャンスは続くと。

 

萩原: ええ。ですから、絶対に持ち込みはしたほうがいいです。うちでは無理な場合でも、アドバイスをして他の雑誌を紹介したりしますし。出版業界全体の未来を考えれば、いっぱい漫画家が誕生してほしいという気持ちがありますからね。

 

 

――持ち込みする際の原稿って、皆さん、ペン入れまでした完成原稿を持ってくるんですか。

 

萩原: 一応それが望ましいんですけど、そこまでいかなくても拝見します。ただ、最後まで描きあげて持参する人って根性があるんですよね。漫画家は体力と根性のいる世界なので、描きあげてくる人はやっぱり見込みがありますよね。

 

女性の写真

 

 

(制作:ナイル株式会社)
(執筆:園田 菜々)

 

  • twitter
  • LINE
  • Pinterest
  • Facebook
  • URL Copy
  • twitter
  • LINE
  • Pinterest
  • Facebook
  • URL Copy