新しいマンガ制作のカタチ、原作と作画で分業する「原作付きマンガ」とは?

男の子のアイキャッチ画像

近年、原作者とマンガ家が別々に存在する作品が一般的になりつつあります。このような「原作付きマンガ」と呼ばれるジャンルについて迫ります。

 

 

これまでマンガ家は、ストーリーから作画まで一貫して一人で作り上げるのが主流でした。

 

しかし近年、原作者とマンガ家が別々に存在する作品が一般的になりつつあります。
従来の1人ですべてを担うスタイルと、原作者とマンガ家が協力して作品を作るスタイルでは、一体何が変わってくるのでしょうか?

 

この新しいマンガ制作の形態について、見ていくことにしましょう。

 

「原作付きマンガ」とは?

 

「原作付きマンガ」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。一般のマンガの中でも、絵を描く「マンガ家」とは別に、ストーリーやキャラクター設定を考える「原作者」がいる作品を「原作付きマンガ」と呼んでいます。
握手する絵

 

 

この分業制では、原作者は物語の創作に力を注ぎ、マンガ家は絵を描くことに集中できるため、よりクオリティの高い作品を生み出せるのです。

 

「原作付きマンガ」として有名な作品は?

 

では実際どんな作品が「原作付きマンガ」なのか、気になりますよね。

 

例えば、映画化・ドラマ化されたことで有名なのは『DEATH NOTE』や『バクマン。』(原作:大場つぐみ/作画:小畑健)です。

 

そのほかにも、『金田一少年の事件簿R』(原作:天樹征丸/作画:さとうふみや)や『アイシールド21』(原作:稲垣理一郎/作画:村田雄介)、『花のズボラ飯』(原作:久住昌之/作画:水沢悦子)も原作付きマンガとして有名です。特に『花のズボラ飯』の原作者は、最近実写化もされた『孤独のグルメ』の原作者でもあります。

 

少し時代を遡れば、『キャンディ・キャンディ』(原作:水木杏子/作画:いがらしゆみこ)、『北斗の拳』(原作:武論尊/作画:原哲夫)、『釣りバカ日誌』(原作:やまさき十三/作画:北見けんいち)などなど、実は意外と多くの作品が「原作付きマンガ」として発表されているのです。

 

2人の脳が「足し算」ではなく「掛け算」で世界を作る!

 

原作と作画を分業した場合に、プロの作家達は一体どのように仕事をしているのでしょうか。

 

 

■原作者は、「脚本家」兼「演出家」

監督の絵

 

原作者は、何もないまっさらな状態から作品のもととなる部分を発想し、物語を構築することが仕事です。

 

『アイシールド21』の原作者・稲垣理一郎氏は、当時日本では馴染みの少なかったアメリカン・フットボールに焦点をあてました。元々アメリカン・フットボールが好きだったという理由もあるそうですが、選んだ理由はそれだけではないのです。
稲垣氏はインタビューでこんなコメントを残しています。

 

“力押しでは絶対に勝てないスポーツなんです。戦術を駆使して攻めるところがいいな、と。…(中略)…頭と体、両方が合体して最強になる。そのあたりが、ああこれはマンガにしたらおもしろいかもしれないぞ! と思いました”

(『マンガ脳の鍛えかた』より/集英社)

 

 

このように、自分の得意分野というだけではなく、マンガで表現したとき活きるテーマかどうかが重要なのですね。
『アイシールド21』は、元パシリの主人公・セナを中心に、個性的なキャラクター達の登場するストーリーです。セナはアメリカン・フットボールを全く知らないのにアメフト部に入部させられます。
この点について稲垣氏は

 

“アメフトを知らない読者の代わりにフィールドに立ってくれる人として必要でした”

(『マンガ脳の鍛えかた』より/集英社)

 

と、その役割を語ります。

 

アメリカン・フットボールを知らない読者と主人公が同じ視座に立つことで、読者を物語に引き込み、一緒に楽しめるよう配慮をする。読み手のことを考えながら物語を考えるのも、原作者の仕事の1つと言えるでしょう。

 

 

ところで、原作者のスタイルはさまざまあります。

 

設定だけ考える場合、それにプラスして物語の流れまで考案する場合、さらにセリフも決めて脚本化まで手掛ける場合。一般的な原作者はこのどれかに留まりますが、稲垣氏はそれを超えて、コマ割りを終えたネーム制作までこなすそうです。

 

“まず担当さんと打ち合わせの時にメモしたものを見ながら、パソコンで詳細なプロットを作ります。次にそれを見ながらセリフもト書きも入った、劇とか映画と同じような完全なシナリオを仕上げます”

 

“シナリオを書きながらページ配分とコマ割りまで考えるクセがついてきて、今は全部同時にできるようになりました”

(『マンガ脳の鍛えかた』より/集英社)

 

作品の根幹から演出方法までプロデュースする立ち回りは、例えるなら「脚本家」と「演出家」を兼任しているようなものでしょうか。稲垣氏の場合、読者を面白がらせるネタを練るほかに、その面白さを伝える手段まで考えているのですね。

 

 

■作画はマンガの面白さを引き出す「俳優」兼「美術監督」

舞台と男の子

 

では、ネームまでもらった作画担当は、一体どんな仕事をしているのでしょうか。『ヒカルの碁』(原作:ほったゆみ)の作画を担当する小畑健氏は、ほった氏のネームについて次のように語っています。

 

“ほったさんのネームが、もう本当におもしろくて、ひれ伏したというか。それまではどこかで自分の作家性みたいなものも出した方がいいのでは、と考えていたんですけど、そういうものは必要ないんだ、と思った。…(中略)… おもしろく見せる絵を描くのが自分の役割だ、と思いました”

(『マンガ脳の鍛えかた』より/集英社)

 

原作者のアイデアが最も光り輝くよう、役者をデザインし、彼らの住まう世界を読者の前に視覚化する。小畑氏の絵の力が原作の魅力を強力に後押しして、結果あのヒット作品が生まれたのです。

 

原作者が「脚本家」兼「演出家」であれば、作画は「役者」兼「美術監督」といったところでしょう。

 

原作付きマンガには無限の可能性がある!

 

このように「原作付きマンガ」では、原作者とマンガ家が自分の特徴を活かし、それぞれの仕事に注力することで、1人ではなしえなかった「マンガの面白さ」を表現することができるのです。
つまり「原作付きマンガ」には、原作者とマンガ家の出会いの数だけ無限の可能性が秘められていると言っても過言ではないでしょう。

 

「この原作者と、このマンガ家が一緒に作品を作ったら、どんな面白いマンガになるだろう?」と、想像しながらマンガを楽しむのも良いかもしれませんね。

 

(制作:ナイル株式会社)
(執筆:哀川 空)

(イラスト:aom)

 

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