話題の『ReLIFE』と『恋と噓』をじっくり読んでみた!?
敏腕編集者・佐渡島庸平氏のブログより人気記事を再掲載! 編集エージェント会社コルクの設立者にして代表取締役の佐渡島庸平氏が無料アプリの2大人気作品『ReLIFE』と『恋と嘘』を読む。ヒット作を生み続けてきた佐渡島氏による作品分析は必見!
最近、マンガアプリが元気だ。
中でも、出版社ではない、IT企業によるcomico、マンガボックスが好調だ。
最近、僕も、ニュース共有サービス「NewsPicks」に記事を寄稿した。
comicoが好調なきっかけをつくったのは『ReLIFE』。いきなりのヒット作で、アニメ化も決まっている。
一方、マンガボックスは、なかなかヒット作がでなくて、ダウンロードは好調ながら、いまいち波に乗り切れていなかった。でも、マンガボックスからも、ついに『恋と嘘』というヒット作がでてきた。
では、果たして『ReLIFE』と『恋と嘘』は、面白いのか?
無料で読めるアプリの読者の嗜好は、有料の雑誌の読者と同じなのだろうか?
仕事柄、どちらの作品も、斜め読みはしていたのだけど、じっくり読むのは今回が初めてだった。
正直、どちらも、そこまで期待していなかった(!)。
無料にしては面白くて、どちらもうまく話題になってより売れているのだろう、と思っていた。
果たして、どちらも面白かった。伏線の貼り方なども長期連載が初めてとは思えない。
『ReLIFE』 のあらすじは、こんな感じだ。
ある薬を飲むと、体だけが高校生になる。
その薬を「リライフ」研究所に渡された27歳のニートの主人公は、高校生を一年間だけやり直す。
主人公は、どんな風にやり直すのか?「リライフ」研究所の目的は何か?
一方、『恋と嘘』のあらすじは、こんな感じ。
16歳になると、政府から結婚相手が指名され、人々はその相手と結婚しなければいけない。自由な恋は許されない。
うだつがあがらない主人公16歳は、通知が来る前に、密かに恋心を抱いていた女性に気持ちを打ち明ける。
予想外にうまくいったけど、通知がきて指名された女性も、すごく美人。いきなりハーレム状態。どうする主人公!?
少年マンガと青年マンガの違いは、何か?
これは、純文学と大衆小説の違いのようなものだと僕は思っている。
あくまでも、僕の中の定義だけど、少年マンガは、設定の面白さとストリーテリングでみせる。
一方、青年マンガは、設定ではなく、人間の細かい、心理描写の積み重ねで、物語を紡ぐ。
例えば、僕が編集している『宇宙兄弟』の設定は……
幼少時代、星空を眺めながら約束を交わした兄・六太と弟・日々人。
2025年、弟は約束どおり宇宙飛行士となり、月面の第1次長期滞在クルーの一員となっていた。
一方、会社をクビになり、無職の兄・六太。
弟からの1通のメールで、兄は再び宇宙を目指しはじめる!
『ReLIFE』や『恋と嘘』と比べると、設定の奇抜さがなく、「これ、どんな物語だろう?」と思わせる力は弱い。魅力は人物描写だから、読んでもらって、六太や日々人と接してもらわないと伝わらない。
『SLAM DUNK』ですら、数多あるスポーツマンガと比べて何がすごいかは、桜木の魅力に触れて初めて気づける。作品の魅力は、物語の設定ではない。(僕にとって『SLAM DUNK』は少年も読める青年マンガだ)
少年マンガは、設定が重要だから、その設定を受け入れることができないと、作品を楽しむことが難しい。
その意味において、『ReLIFE』 と『恋と嘘』の設定を、僕はすぐに受け入れることができた。
『ReLIFE』の場合は、高校へ行った主人公が、筆箱を持っていくのを忘れるシーンがある。そして、大人になって、筆箱を持つ習慣がなくなっていたと気づく。
そのシーンを読みながら、僕が高校生に戻っても、おんなじミスを犯しそうだなと思った。
そういう細部の感覚にリアリティがあって、世界へと入っていける。
『恋と噓』は、僕らの世代にとっての『電影少女』の現代版だ。男にすごく都合がいい物語だけど、ついつい読んでしまう(笑)
どちらも、ニートだったり、うだつがあがらなかったりする主人公だ。彼らが夢のように楽しい経験をする。読者を現実逃避させてくれる物語だ。
僕は、基本的に読者に現実を突きつける作品が好きだから、そういう作品の編集をすると思う。普段の僕の好みとは違う作品だけど、2作品ともすごく面白かった!
どちらも無料ですぐに読めるから、読んでみてほしい。
■佐渡島庸平
※本記事は佐渡島庸平氏のブログ『コルク・佐渡島庸平のブログ』からの再掲記事となります